1・狸の王と花嫁
1・出会い
高校にはまだ行きたくない。サボってしまおう。そんなことを、ぼんやりと考える。
“おまえは呪われているよ”
“おまえはきっとすぐに死ぬ”
「…五月蠅い」
私に話しかけてくるモノは邪霊というのだと教えてくれたのはおじいちゃんだった。私のように邪霊に狙われやすい人も
一定数いるという。
おじいちゃんも、この世ならざる者が見えていた。でもおじいちゃんは邪霊には狙われていなかった。邪霊が狙うのはいつだって私だった。
『邪霊が来たらこのお守りを握るんだ。えれなが願えば邪霊なんかすぐにいなくなるよ』
そう言っておじいちゃんがくれたお守りの効果は抜群で、すぐに邪霊はいなくなった。
「はあ」
家にいても気が滅入るだけだ。外に出よう。
学校には行かないけど、なんとなく制服を着る。学校は嫌いだ。もし、周りの人に邪霊の影響があったら、と考えると、友達も作れなかったし学校に行くのが苦痛だった。
適当に歩いた。
「あれ?」
気づくと知らない道に出ていた。おかしい。さっきまで知っている道だったのに。
来た道を慌てて戻ったが、もう遅かった。歩いても歩いても同じ道に出る。邪霊の仕業かと思ってお守りを握りしめたが無駄だった。
怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
「おじいちゃん…」
かすれた声でつぶやいても、誰も来ない。
“トプッ”
粘性の強い、液体の音。こわごわと振り向くと、そこにいたのは。ドロドロした、暗い、昏い。そして冥い何か。闇を煮詰めたような、暗黒。
「ひっ…」
逃げないと。どこへ?遠くへ。どうやって?わからない。
“はじめまして”
“玉依姫”
ソレが何か言っている。怖い。何も聞こえない。
“おいで。こっちへ”
「い、いや、来ないでっ…」
ソレに、追いつかれたら、捕まったら、多分。死ぬ。
でも、死んだらパパやママやおじいちゃんに会える?なら。死ぬのも悪くないかも、しれない。
目を閉じる。
“トプリ。ズル”
ソレが近づいてくる。無意識に握っていたお守りを手放す。
『だから。もっと生きて』
…ごめんなさい。おじいちゃん。でも、一人で生きるには私は弱くて脆すぎた。
もうすぐ、そっちに。
そのとき。カッと、目の前で閃光が走った。目を閉じていてもわかるまぶしさだ。
恐る恐る目を開くと、目の前に一人の少年がいた。私と同年代の、きれいな人。
ゆっくり私に手を差し伸べるあなたは、誰?
『えれな。運命を呪うなよ』
何が、私の運命?
ああ。頭が重い。瞼がおりてくる。寝不足かもしれない。
もう寝てしまってもいいかもしれない。
御休みなさい。
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