第16話

『わたしはこれ以上生きていられそうにないので、刺青を剥がして保存していただきたいんです』

 アカネの冷静な声は言った。

 弓野の声が噛みつくように、彩龍の情報をねだった。アカネは穏やかかつ毅然とはねつける。

『すみません。彩龍さんのことは話さない約束なので。でも確かに彩龍さんの作品です。わたしにはふさわしくない、すごいものです』

 弓野はアカネを質問攻めにしたあと、たいした情報は取れないと判断したのか、段取りの打ち合わせに入った。

 やっとこの音声を聞くことができた。今日は、病院で手を縫ってもらって帰ってきた翌日。

手を刺したあと、ショックを受けた吉持をなだめるのは大変だった。こっちは手から出血しているというのに、怪我したほうが慰めるなんて、はたから見ると滑稽だったことだろう。吉持は、怪我の具合を報告してくれと言って、俺に連絡先を渡したのだった。昨日、早速電話で報告してやった時、吉持はよかったと言ってくれた。人の体というのは、案外うまくできているものだ。簡単に再起不能にはならない。

 再び電話をかけた俺に、吉持は応答した。

「先生、どうしました?」

「剥がしたか?」

 俺の問いに、吉持は悔しそうな口調で否定した。

「連絡が取れません。逃げられたようです。さすがに、彩龍先生の作品が惜しいんでしょう」

「俺が呼び出してやる」

「え、剥がすのに協力してくれるんですか?」

「ああ」

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