ハダバナハギ

諸根いつみ

第1話

 妹の葬儀には、俺しか参列者がいないものだと思っていた。俺はアカネの唯一の家族。アカネの職場以外に知らせる人もいないし、誰も来ないだろうと。

 しかし、表に桜の花びらが舞う小さな葬儀場に、喪服姿の男女が現れた。二人とも、俺と同じくらいの歳、三十代半ばだろう。小柄な男はやけに目がギラギラしていて不健康そう。男よりも背の高い女はそれなりに美人だが、ボブカットの黒髪の内側に見える青いインナーカラーが、美しさというよりは、近寄りがたく怪しげな雰囲気を添えている。

「コウセイさんでしょうか?」

 そのまったく見覚えのない女は言った。俺が肯定すると、二人は「お悔やみを申し上げます」と頭を下げる。

「俺たち、こういう者です」

 二人は名刺を渡してくる。芸術保存協会。男が理事長。女が会長。

「芸術保存協会……?」

 二人とも、そんなに偉そうな立場の人間には見えないが。それに、理事長と会長って、なにが違うんだ? しがない美術教師の俺にはわからない。

 女は言う。

「到着が遅れまして申し訳ありません。片海アカネさんからご依頼を受けました。葬儀社にはすでに許可を取っております。少しお時間をいただきます」

「あの、どういうことですか。あなた方は、アカネの知り合いなんですか?」

「いいえ。アカネさんの背中の皮をいただきたいのです」

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