第二話 「изменять(変化)」

「おい! 次の記事の企画は決まってんのかっ!」


「ええ・・・すでに決まってますよ」


「礼文・・・・っ」


第四編集局の中で怒鳴り声を上げていた


日朝新聞の巨漢社員、中根 学は


自分の言葉に綽綽(しゃくしゃく)とした態度で


返事をする後輩社員を見て、


思わずその言葉を止める...


「な、何だ、礼文か....」


"ギイイイイイイィィィィ....


礼文は自分の座っていた


回転式の椅子を傾けると、大声を張り上げていた


中根に向かって歪んだ表情を見せる....


「何も、牧場や何かじゃないんですよ...」


「ぼ、牧場?」


"ギイイイイイイイィィィィィ....


戸惑った表情を見せている中根に向かって、


礼文がさらに言葉を続ける


「そんな、太った体をして――――? 


 ....中根さん?」


「き、キサマ....!」


"グッ"


「み、三咲....!」


"フル フル"


「・・・・!」


目の前の後輩の態度に、中根が一歩


その後輩に向かって足を進ませようとするが、


脇にいた中堅社員、三咲 恭二が


前に進んで行こうとする中根の上着の裾(すそ)を


後ろから引っ張り、首を横に二回ほど振る


「ここは、北海道か何かの


 自然地帯じゃあないんです...」


「し、自然地帯――――!」


「な、中根くんっ」


「ッ!」


"ガサッ!


「・・・どうしたんですか...? 中根さん...」


「な、何でもない....っ!」


"ガサッ ガササッ!


「なら、いいんですけどね―――?」


「~~~~~っ...」


"ガサッ ガササッ!


「ち、ちくしょう....モグモグ...」


「な、中根くん、こらえて下さい―――!」


「―――っ! モグ、モグ、モグ....」


"ガサッ ガササッ!


礼文が後ろに振り返ったのを見て、中根は


自分のズボンのポケットから


ロシアのソシースキ(ロシア風ソーセージ)


を取り出し、その包みを破ると


悠然と歩き去っていく礼文の後姿を睨み付けながら


トマトケチャップの付いたソシースキを


口一杯に頬張る....


「ち、ちく...モグ....


 あ、あの....モグ....モグモグ...っ!?


 ――――!? う、うまいっ。」


「(何で、こうなったんだ....)」


「な、中根くん、それは――――!」


「――――うるさいっ!」


"バンッ!"


「あ、ぁあっ!?」


「く、クッソー....モグモグモグ...」


食欲過多の中根の体調を心配した三咲が


中根が再びポケットから


食料を取り出そうとするのを見て、それを止めようとするが


中根は三咲の腕を振り払い


再び包みの中に入った


トヴォローグ(カッティングチーズ)を


口の中に放り込む!


「く、くっ....ソ~...あ、う、うまい...


 モグモグモグモグ....」


「(中根....三咲....)」


「それより、明日のアロ!・コムソモーレツ


 のレイアウトはどうするんですか?」


「"!"」


編集長席の前に立てた衝立(ついたて)の裏から


隆和が室内の様子を伺っていると、


先程まで中根とやり取りをしていた礼文が


部屋の全員に聞こえる様に、


自分のパソコン画面に表示された


「アロ!・コムソモーレツ」紙の


インターネットサイトの


トップ画面を表示させながら


声を上げている姿が見える....


「江母井編集長....」


「"!"ッ!?」


「そんな、端に隠れて何を


 やってるんですか―――?」


「・・・・」


"スッ"


「何も、隠れてた訳じゃあ、無いんだがな...」


"コッ コッ コッ コッ....


衝立の裏から出ると、隆和は


自分の席と衝立の間に立っている


礼文の元へと歩み寄って行く....


「フッ....また、てっきり、下らない、


 "女子高生"ゲームでも


 やってたと思いましたよ―――!」


「(――――!)ッ!」


投げ捨てられた様な一言に、


思わず隆和の血の気が引いていく


「―――いい年をして・・・!


 そんな、ゲームにウツツを抜かしてるから、


 いつまで経っても、"Earth nEws"に


 編集長の記事が掲載されないんですよ―――?」


「(――――!)


 ・・・あ、ああ、一応、


 努力はしてるんだがな....」


"フッ"


「子供じゃあないんだから、


 "努力"より、"成果"を


 出してくれませんかね・・・?


 江母井さん――――?」


「(――――っ!)」


"バッ


「それじゃあ、今日は今週の


 アロ!・コムソモーレツの掲載記事の


 立案でも出していきますか」


「あ、それいいかも!」


「(ゆかり・・・!)」


「マタ、レブンくん、面白いアイデア


 持ってきてるんじゃない?」


「(ホアン....!)」


「Ведь скорость


 публикации ваших


 статей здесь на


 сегодняшний день


 лучшая, чем у других


 сотрудников....

(何だかんだ言って、ここの所の


 アンタの記事の掲載率は他の社員より


 飛び抜けてるからね....


 アンタ主導でやってった方が


 いいんだろうね...)」


「(エレーナ....っ)」


礼文の周りに集まっている第四編集局の局員、


自分の部下達に隆和が目を向ける....


「え~、それじゃあ、まずは....」


「(な、何でこうなったんだ―――?)」


"カタッ"


「え~ それじゃあ、先週の記事の掲載率は...」


「(・・・・)」


自分の机の上に乗せられたパソコンの画面を


礼文が開くのを見ながら、


「(.....麻衣っ...)」


隆和は、ただ自分の現状を嘆いていた....


「Ну, тогда как насчет


 завтрашних статей


 Елены―сан?

(あ、じゃあ、明日の数面の記事は


 エレーナさんの記事でどうかな?)」


「О, я?

(あ、あたしかい?)」

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