ロシアにて~さらば、我が愛しのロシアよ~

ろわぬ

第一話 「С тех пор(あれから)」

「編集長――――?」


「――――ッ、」


藻須区輪亜部新聞2F、第四編集局。


「肩ァ....揉んでくれませんかね...」


「――――っ!」


「な、なんだとっ!?」


"ガタッ!


椅子に座っていた礼文が放った一言に、


隆和の隣で席に座っていた太田が


自分の席から立ち上がる!


「いえ...ロシアの夜は、冷えるんでね...」


「だ、だから何だ―――っ!」


隆和が太田の机の脇で向かい側の席に


体を傾かせながら座っている礼文に、


戸惑った様な表情を見せる


「凝るんですよ....肩ァ...」


「――――!」


"ギイイイイイイィィィィ...."


新しく自分で用意したのか


回転式の椅子を傾かせると、礼文は


ゆっくりと太田の席の脇に立っている


隆和に向き直る....


「――――"ダメ"ですかね・・・?」


"ガバッ!


「へ、編集長ッ!?」


「(...礼文ッ・・・!)」


太田が腕を掴んでくるが、その腕を振りほどくと


隆和は少し離れた場所にいる


礼文の元に歩み寄って行く....


"コッ コッ コッ コッ.....


「礼文・・・・」


"ギイイイイイイィィィィィィ.....


椅子をギシギシと軋ませながら


自分の前に立った上司を、礼文は


椅子に座ったままの状態で見上げる


「――――どうしたんですか...?


 "江母井"


 さん...?


 肩...、揉んで、くれないんですか―――?」


「(――――くっ!)


 ・・・・」


"ズサッ"


「え、江母井さん―――、」


「―――黙ってろ、太田」


「・・・・っ」


"ズサッ"


「・・・・!」


脇で見ていた太田を手で制すると、


何か孫の手の様な物を自分の肩に


当てている礼文の側に隆和が歩み寄る...


「(―――ええいっ、)」


"ぎゅむ


「――――んっ、」


「(く、くそっ―――!)」


"ぎゅむ ぎゅむ


「(な、何でこんな事に――――)」


「―――ん~、いいですね....!」


「(――――くっ、)」


"ぎゅむ ぎゅむ ぎゅむ...


「へ、編集長・・・」


「どうですか―――礼文デスク―――?」


太田が悲痛な表情を浮かべているのを見ながら、


卑屈な笑みを浮かべ、隆和は


椅子にふんぞり返って座っている


礼文の肩を力強く揉みしだく!


「ん~、いいです...とても、いいですよ...?


 江母井さん...?


 やっぱり、編集長に肩を揉まれると、


 一段、何と言うか、"違い"みたいな物が


 ありますね....?」


「(くぅっ~―――...)」


「へ、編集長・・・っ」


「―――何も言うな、太田....」


"ぎゅむっ ぎゅむっ ぎゅむっ ぎゅむっ...."


まるで新入社員の様な態度で、隆和は


椅子にのけ反っている様な姿勢で座っている


礼文の肩を丁重に揉んで行く....


「悪くない気分ですね....


 ええ? 江母井さん...?」


「(こ、この野郎~っ)」

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