二刀流の男
あーく
二刀流の男
――新聞部 部室
「
香久子は本を読みながら返事をする。
「それがどうかしたんですか?
「聞くところによると、文武両道、才色兼備で転校初日から大人気の新入生がいるらしい」
「ふーん」
香久子はフルーツジュースを飲みながらページをめくる。
菊男は中指でメガネをくいっと上げる。
「というわけで今日は彼の取材だ」
「いってらっしゃ〜い」
「君も来るんだよ!」
かくして、菊男と香久子は噂の彼の元へ足を運んだ。
「こんにちは。新聞部の菊男と申します。新入生ということで取材したいのですが、お時間よろしいでしょうか?」
噂の新入生はニコリと笑った。
「はい、いいですよ」
「立ち話もなんなので新聞部にお越しください。案内するので」
菊男は新入生を新聞部に案内した。
菊男と新入生は向かい合い、ソファに座った。
香久子は椅子に座り、シャープペンシルをカチカチと鳴らした。
「早速、軽く自己紹介をお願いしたいのですが、まずお名前をお願いします」
「はい。仁藤 流(にとう りゅう)と言います」
「生年月日と血液型をお願いします」
「2月10日生まれ、AB型です」
「好きな食べ物は?」
「ハンバーグカレーです」
「朝ご飯は何を食べますか?」
「ご飯とミルクとハムエッグとサラダです」
「はい、ありがとうございます。それでは、少し込み入った話をしたいのですが、もし言いたくなければ黙秘しても構いません」
「はい、わかりました」
「ご入学ということですが、意気込みはありますか?」
「はい。文武両道ですね!勉強はもちろん、運動もできなければなりません」
「文武両道ですか。いいですね。ちなみに何か部活に入る予定ですか?」
「野球部です」
「野球ですか。どうして野球部に入ろうと思ったのですか?」
「今まで野球をしていたので、これからも野球を続けたいと思っています」
「素晴らしいですね。ちなみにポジションは?」
「ピッチャーです」
「ピッチャー!?素晴らしいですね!」
「恐縮です。だから、今回も投手狙いで行きます」
仁藤はサウスポーで投げるジェスチャーをした。
「へ〜。左利きなんですね」
「よく言われるんですが、実は両利きなんです」
「両利き!?」
すると、香久子が菊男の元へ駆けつけ、耳打ちをした。
「部長、何かおかしいですよ彼」
「うん。彼は間違いなく、大物になるよ」
「いや、そこじゃなくて――改めて自己紹介見てみると、二刀流のオンパレードなんですよ。」
「そうか?」
「だって好物も普通ハンバーグとカレーって分けるじゃないですか。でも彼の好物はその両方入ったハンバーグカレーなんですよ?」
「僕もハンバーグカレーは好きだけどなあ」
「……。あと、朝食も米と肉で和洋折衷ですし」
「それは今の日本では普通だろ?」
「それだけじゃありませんよ。彼の野球の成績を調べてみたら、投手としてだけじゃなく、打者としても有名らしいんです」
「え!?利き手と投打のダブルで二刀流じゃないか!」
「しかもピアノコンクールでも優勝してますし、学年テストでも一位をとったとかなんとか」
「うーん、本当に文武両道なんだなぁ」
「ついでにルックスと賢さも二刀流ですね。天は二物を与えるんです」
「確かに二枚目だよな。名前からして二刀流だし、血液型もAとBだし」
「だからそこじゃありませんって……。あと名前をいじって叩かれても知りませんよ」
「おっとすまない」
菊男は咳払いをし、インタビューを続けた。
「え〜、気を取り直して続けたいと思います」
ピリリリ!ピリリリ!
仁藤のズボンのポケットから着信音がした。
「おっと失礼しました。少し席を外させてもらいますね」
仁藤は携帯電話を取り出した。
「Hello. I'm just practicing talking monkey, haha!(やあ。今猿と話す練習をしてる最中なんだ。ハハハ)」
「英語で話してる……。バイリンガルか!」
仁藤は話を終えると、携帯電話を切った。
「すみませんね、途中で電話が鳴っちゃって。お二人の大切な時間を無駄にしてしまいました」
「……この人二枚舌ですよ」
「ん?どこがだ?」
「……部長ってこの前もらった英語の成績どのくらいでしたっけ?」
「……2」
「うち評定3段階でしたっけ?」
「うるさい!次いくぞ次!メモをとれ!メモを!」
仁藤は笑った。
「ふふふ。二人とも仲良いんですね!」
菊男と香久子は慌てた。
「いや、そんなことは――」
「青春っていいですよねー。実は僕、恋愛したことがなくって――」
菊男と香久子は重い空気を感じ、口を固く閉ざした。
「実は僕、そっちの気もあって、まともな恋愛したことないんですよー。いやあ、お二人が羨ましいですー。はっはっは!」
新聞部の二人は同じ事を思った。
((バ、バイセクシャル……!!センシティブな内容なだけに、これはツッコミづらい……!!))
「僕としてはちょっと強めに攻めてくれる人の方がいいです!あ、でも僕から攻めたい気持ちもあるかも……」
((SとMの両方あんのかよ!っていうかそんな性癖誰も聞いてねーよ!))
「って、そんな話誰も聞いてねーよ!って話ですよね、すみません」
((ボケとツッコミも一人でするのかよ!))
――インタビュー終了後
「いやあ、変わった人でしたね、部長」
「うーん、確かに。あ、色々聞いたけど、センシティブな内容はあまり書かないように。本人が嫌がると思うから」
「はーい。ん?部長」
「どうした?」
「長くなっちゃったんですけど、これ片面で二枚にしましょうか?それとも――」
「あ――両面印刷でよろしく」
二刀流の男 あーく @arcsin1203
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