最凶の妖刀『血啜り』外伝~誠兵衛の二刀流~

久坂裕介

第1話

 江戸時代初期。昼七つ(およそ午後4時)。

 江戸の沖石道場では、稽古が行われていた。


 美玖みくが言い放った。


「うーむ、やはり実戦の稽古、道場破りで相手を倒した人数が1番、少なかったのは誠兵衛せいべえか……。

 四番刀よんばんがたなとはいえ、江戸最強の剣客集団、四刀しとうとしては、由々しきことだな……。

 よし、今日も私、自ら稽古をつけてやる! 竹刀を持て、誠兵衛!」


 誠兵衛は道場破りでの疲れが、まだ残っていたが、竹刀を持ち立ち上がった。


「は、はい……」

「うむ、私から1本、取るまで稽古は終わらぬぞ! かかってこい!」

「は、はい……」


 誠兵衛は必死の表情で美玖に突進し、竹刀を右上から左下に振り下ろした。美玖はそれを軽々とかわして、再び言い放った。


「誠兵衛、何だ、その攻撃は?! しょうがない、私が手本を見せてやる!」


   めん


   小手こて


   どう


 美玖は一気に、3回、竹刀を振るった。

 頭上から真っすぐに振り下ろす、面。

 相手の手元を突く、小手。

 相手の胴体を左から右へ薙ぎ払う、胴。

 誠兵衛は、その3回の攻撃を喰らって、道場の床に倒れこんだ。


 四刀の三番刀さんばんがたな市之進いちのしんと、二番刀にばんがたな重助しげすけが声をかけた。


「誠兵衛君、頑張って!」

「ふん、一番刀いちばんがかなの美玖さんが相手とはいえ、1本くらい取ってみろ!」


 誠兵衛は

「はあ、はあ……」と息を切らしながら、立ち上がった。そして考えた。


 駄目だ、やはり美玖さん相手に普通に戦っては、1本は取れない。おそらく2人がかりでも、1本は取れないだろう……。

 だが、ある考えが浮かんだ。


 2人がかり?! そうか、これなら、どうだ?!


 誠兵衛は、美玖に提案した。


「あ、あの、美玖さん……」

「うん、何だ?」

「竹刀を2本、使っても、いいでしょうか?」


 美玖は少し考えた後、答えた。


「ふむ、二刀流か。面白い、やってみろ……」


 すると市之進が、自分の竹刀を手渡した。


「これを使って、誠兵衛君!」


 誠兵衛は、礼を言った。


「あ、ありがとうございます。市之進さん……」


 2本の竹刀を左右に持った誠兵衛は、上段に構えた。そして、一気に振り下ろした。


   二刀流、面!


 だが美玖は1歩下がって、2本の竹刀をかわした。

 それならばと誠兵衛は1歩、踏み込んで突いた。


   二刀流、小手!


 すると美玖は素早く右へ移動して、2本の竹刀をかわした。そして少し考えた後、告げた。


「ふむ。私なら2本とも、攻撃に使ったりは、しないな……」


 その言葉を聞いて、誠兵衛は閃いた。

 左の竹刀を水平にして防御にし、右の竹刀を攻撃するために、垂直に立てた。


 美玖は満足そうな表情で、告げた。


「うむ。1本を防御に、もう1本を攻撃に。私なら、そうする……」


 誠兵衛は思った。わざわざ自分のために助言をしてくれた美玖のためにも、竹刀を貸してくれた市之進のためにも、美玖から1本、何としても取りたいと。

 そして誠兵衛は、待った。


 美玖は、告げた。


「かかってこないのか? なら、こちらから行くぞ!」


   面!


 『きた!』と誠兵衛は、左の竹刀で面を受けた。そして右の竹刀で、右から左へ薙ぎ払った。


   胴!


 だが、それを見越していた美玖は素早く竹刀を左に寄せ、胴を受けた。


 『くっ、受けられたか?!』と誠兵衛が思った瞬間、美玖は素早く竹刀を頭上から振り下ろした。


   面!


 またしても1本取られた誠兵衛は、呆然とした。

 竹刀を2本使った、二刀流でも駄目だったか……。


 再び美玖は告げた。


「うむ。防御の竹刀で攻撃を受け止め、その隙にもう1本の竹刀で攻撃をする……。

 うむ、私でも、そうするだろう。だが、それが、ばればれだ……」


 ほとんど体力が無くなり肩で息をしながら、誠兵衛は答えた。


「は、はい。やはり僕の考えは、読まれていましたか……」


 美玖は、満足そうな表情で答えた。


「うむ。だが竹刀を2本、使うという発想は悪くない。何としてでも1本、取りたいという気迫を感じた……。うむ、良い稽古だった……」


 そして美玖は続けた。


「よし、今日の稽古は、ここまでだ! みんな、ご苦労!

 それでは3人で、夕食を作ってくれ。いつも通り、美味しい夕食をな!」

「はい!」

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