第二話 グリード殿下
「お、王妃様が……応接間でお待ちです!オリヴァー様とフィア様を……お呼びするように、と仰せになっておられますので……お急ぎ下さい!」
「は、はああ?」
「え、はい?」
う、嘘でしょ……屋敷まで来るとか、そんなことあるものなんですか……?
……いや、ないと思います。本当に。
「あら、遅かったわね。オリヴァー、アルフィア。」
「申し訳ありません、叔母上。アルフィアと話をしておりました。」
……この返答で大丈夫なんでしょうか。
「……はあ……仕方がありませんよね。翌日に押しかけた私も悪かったですからね。それでアルフィア。体調は大丈夫そう?」
「は、はい。」
「なら良かった。でも無理は禁物よ?分かりましたね?」
「はい……。」
さっきも聞いた気がしますね……って、あ……お父様と同じことを言っているんですね……何という偶然なんでしょう。たまたま、ですよね……?
「それで、私が来たのはあの馬鹿息子のことなんだけれど……。」
「グリード殿下がどうかなさったのですか、叔母上?」
おっとその話でした。でも私も聞きたいです、そのことに関して。
「あの子……全く反省してないのよ。陛下に王子教育には口出しをするなと言われて来たけど、もう無理よ……。しかも、初めて主催して婚約破棄もしたあのパーティーに私や陛下、宰相以外の大臣達皆をを呼んでいたみたいで……批判が殺到しているのよ……。おかげで対応が大変よ……。しかもあの子、陛下に『まだ当てがあるから父上と母上はお気になさらないで下さい。』と言ったのよ……。本当にどうしようかしら……。」
いや、まさか殿下がここまで愚かとは思っていなかったのですが……。というか、殿下の言う“当て”ってなんなのでしょうか……。
「叔母上。殿下はもう動き始めているのですか?」
「ええ。その当てと交渉するとか言っているようだけど……。」
マジですか……いや、怖……。
「まあ、万が一ここに来ても追い返してくれて大丈夫よ。」
「「はい……。」」
「じゃあ、私はこの辺で。まだ公務がありますから。」
「「はい。」」
「また近いうちにね!」
そう言って叔母様は王城へと帰って行った。
本当にこの騒動、早く終わってくれませんかね……?いや、無理でしょうね……。
「お兄様、私は部屋に戻ります。やりたいことができましたので。」
「あ、うん。なんのことかよく分からないけど……。」
「では失礼します。」
◇
部屋に戻り、一人にしてもらいましたが、うーん……どうしましょうか……さ、まずは情報を集めますか。それから動くしかありませんからね。
「グレイ?いますか?」
「どしたんすか、お嬢?」
貴方、相変わらず早いんですよ……。何です、この怖い成長……。
「貴方……何処にいたらそんなに早く来れるんですか?流石の私も無理なんですけど。」
「えーんーまあそれは秘密っすね。あ、でもお嬢の私生活は流石に見てないっすよ。」
「見てたら騎士団に突き出してますよ……!」
「ま、そりゃそっすよねー。」
軽い……いやグレイは拾った時からそうでしたね……。それは約5年前でしたか。
〜約5年前〜
「街に久しぶりに行けるなんて本当に嬉しいです、お母様!」
「普通だったら王城に行けることの方が嬉しいはずなのに……なんでかしら……。」
あんなとこなんて駆け引きをするだけじゃあありませんか、と言いたかったが怒られる気しかしないのでやめておこうと思います。
「奥様ーお嬢様ー?街に着きましたよ。降りられますか?」
「ええ、そうして頂戴。さ、降りますよアルフィア。」
「はぁーい!ふんふんふんふーん♪」
「あらあら。楽しそうね。」
「はい!それは勿論!」
久しぶりの街を満喫しますよ……って、なんですあれ。
「さっさと出て行け!邪魔なんだよ!」
店の前で騒ぎでしょうか。もう少し状況を見てからどうにかしましょう。
「だ、だって!か、家族が栄養不足で死にそうなんだよ!これ以外に僕が食べ物を手に入れる方法はないんだから仕方ねぇだろ!?」
「だからって商品盗むんじゃねえよ!」
成る程。確かに10祭くらいの男子は働かせて貰えませんからね。さて、もうそろそろ場を収めた方が良いかもしれませんね。買い物しに来ただけなのに……はあ……。
「ねえ、なんの騒ぎなんですか?」
「あんたは引っ込んでな。邪魔なんだよ。」
誰なのか正体を言ったら面白そうですけど、まあ後のお楽しみってことにでもしておきましょうか。さて、面倒ですが頑張りましょうか。
「邪魔、ですか。それではそれを解決する方法を貴方方に2つ提示します。1つ目。今回は見逃す。2つ目に私にこの少年を引き取らせる。……さて、貴方方はどうなさいますか?」
沈黙が広がります。悩んでいるのでしょうか。長く重い沈黙を破ったのは盗まれて怒鳴っていた店の店主だった。
「まあ引き取ってくれた方がいいけどよ……。そもそもあんた、どこの誰なんだよ。」
やっと聞いてくれましたか、と言いたいです。
「宰相家、シュトラール家の長女アルフィアです。ま、少年の生活は保証しますから安心して下さい。ただ買い物に来ただけだったんですよ……。少年は引き取りますから代わりにこれから街に来た時は私のことはただの小娘だとでも思って普通に接して下さいね!約束ですよ!」
「あ、ああ。周りにもそう伝えておきま、……おこう。」
「はい!良かったです!ほら、そこの君。行きますよ?」
「あ、おっす。あ、いや、はい。あ、名前はグレイっつー名前……です。」」
「無理しなくていいんですよ?そのままが一番ですから。」
「あ、そっすか。これからよろしくな、お嬢。」
というわけでここで回想は終わりですけど、『グレイは年齢が近かったから益々良かった』とお父様が言っていて、それでお父様の従者達が色々なことを教えた結果がこれなのでなんとも言えないのですが。一応1歳差です。
「で、なんすか。」
「あー殿下とその恋人……?って感じの男爵令嬢関連を調べて欲しいんですよね。調べられそうですか?無理なら良いのですが。」
「えー暇ですしやりたいっすねー。じゃ、早速行ってくるわ。じゃあな、お嬢。」
「宜しく頼みますよ、グレイ!」
「おっす……!」
〜殿下side〜
「お前達!早く仕事をしないか!」
のろのろしないでさっさとしろよ。
「「「申し訳ございません!」」」
「俺の側近が動かないと話が始まらないだろう!?」
母上は妹に会いに行くと言って出かけて行って父上も外交に出ている今しか機会はない。そもそも何で王族の俺がこんなに公務をやっているのだ?俺は王太子だぞ?公務なんて下の奴にやらせれば良いではないか。
コンコンコン
「こんな時に誰だ?」
「私です。メルレットです。」
……!メルか!
「メルか。いいよ、入って。」
メルはいい子なんだ!男爵令嬢だと馬鹿にするやつがいるが、未来の王妃に何を言っているんだか。まあいい。俺が王になったらそいつを処刑するだけだ。
「あ、あの……お邪魔でしたか?」
「いいや、大丈夫さ。君を俺の妻にできる算段をつけていたのさ。」
「本当ですか!」
嬉しそうなメルを見ると俺まで嬉しくなってくるな……。
「ああ。つてがあるからな。」
「グリード様と結婚できるだなんて……!」
「これからも2人で幸せに過ごそうな。」
「はい!」
そう言って2人で抱きしめあった。
しかし王子は気が付いていなかった。
抱きしめているメルレットが勝ち誇ったかのような笑みを浮かべていたことに。
そして彼らは気が付いていなかった。
彼らを冷たい目で見つめて去っていくグレイの姿に……。
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