第18話 幼女アラサーは現況を聞く



 やはり『闇』属性の方は、秘密でいいんだよね。

 ゲームでの王子とシリウスは、『何でも話す仲(公式設定)』だったんで、もしかしたら、と疑っていた自分である。


「僕も最近、精霊とか精霊王に興味出てきたんだ。シリウスの所に、面白い本があったら読ませてよ」

「分かりました。探してみます」


 礼儀正しく王子の方を向いて、うけたまわるという姿勢をとっていたシリウスに、王子が苦笑を浮かべた。


「もういいよ、シリウス。彼女なら大丈夫だって、分かっただろう?」


 え、なに? 突然、なんのカミングアウト?


「殿下…」

「シリウスはね、いつもはもっと、いや全然くだけた口調なんだよ、シャーロット」


 こっちが心配になるくらい…と王子が付け加えると、シリウスがむっとして言い返す。


「それは、ひどくありませんか?」


 なるほど。幼馴染設定だもんね。

 仲良しさんだもんね、言葉もくだけるよね!

 私は力強くうなずいた。


「私は気にしませんし、だれにも言いません、シリウス様。どうぞ、殿下のお言葉通りになさってください」

「ほら、シリウス」


 笑いをこらえてるように王子がうながす。

 シリウスは、ふうっと息をはいた。


「分かりました。少しずつ戻しますよ」


 諦めたように王子に告げた後、シリウスはこちらを向いた。


「あまり、お姉様とは似てませんね」


 ……うーん、どういう意味かな。

 何気ない口調だったけど、深読みもできそう。

 姉が(多少)無礼な真似をしたのは確実みたいなんで、と『似てない』のはいいことなのか。


(でも、シャーロットわたしには、割といいお姉さんなんだよね、アマレット)


「おそれいります。髪や目の色が、私、姉や母より、冷たいですよね……」

 

 すっとぼけて、日ごろからちょっと思ってたことを、多少演出して言ってみた。

 父親が黒髪で、母親が金髪。姉は茶髪だ。

 みんな違うんだけど、それぞれなんとなく暖色で、シャーロットの銀髪だけ傾向が違う。

 それ言っちゃうと、目の色の紫も、父親の青と微妙に違う。

 ちなみに母と姉は、同じ茶色の目だ。


「いえ、そういう意味では!」


 おぉ、慌ててる、慌ててる。

 女性の容姿に触れるのは、どの世界でもタブーだよね。


「シャーロットの髪と眼は、侯爵夫人のお祖母様ばあさま、ナディア・シメイ王女様譲りなんでしょう?」


 不意に、王子様から、意外な指摘が入った。

 いや、元王女様だから『王家の系図』に載ってるか。


(でも、目と髪の色なんて記載あるのかな……?)


「そうなのですか?」

「聞いてないの?」


 知らない情報に驚いて聞き返したら、王子も驚いたように聞き返してきた。


「確かに、私のセカンドネームの『シメイ』は、その方からいただいたと聞きましたが……」


 そうか、髪と目の色が同じだから付けられたのか。

 納得だけど、知らなかった設定だわ。


「殿下はよく知ってましたね?」


 多少、くだけてきたらしいシリウスが、興味深そうに尋ねた。


「肖像画の間に、三代前のアルフレッド陛下と一緒に描かれた絵があるんだ」

「アルフレッド陛下とは……」

「ナディア王女のお兄さんだよ」

「あーそうか」


(うわ、ちょっと見たい!)


「見たいなら、今度案内するよ」


 心を読んだみたいに、王子様がスマートに誘って来る。

 絵は見たいけど、王宮にはなるべく近寄りたくないんだよね。


(シャーロットが魔獣で、どっかの塔を壊した気がする……)


 確かめに行く気力はまだない。


(悪役令嬢にとって鬼門だよね、王族とか王宮って)


 そんな事情で返事を迷ってると、シリウスがぼそっとつぶやいた。


「殿下、今はまずい。シャーロット嬢を王宮に招くなら、婚約発表後にした方がいい」


 王子がマズい物を食べたような顔になった。


「……何か言って来ると思う?」

「言って来るどころか、待ち伏せされると思う」


 僕の行動は『つつ抜け』だったよね……とぼやいて、王子は組んだ手の上に突っ伏した。


「仮にばれなかったとしても、婚約前から特別扱いしてたってことで非難される」


 それはやっぱり……


「公爵家の方々から、ですか?」


 シリウスが目をまばたかせる。


「シリウス、シャーロットには少し事情を話してある」

「……そっか。いやその方がいいな」


 シリウスが、こちらに向き直った。

 真面目な顔だ。


「公爵家と言っても、『クロフォード』は少なくとも敵じゃありません。もし何かあっても、僕から殿下に知らせられます」

「はい」


 素直にうなずいた。


「『ラッセル』も、貴女のお母様のご実家です。強硬手段に出ることはないでしょう」

「はい」

「『スペンサー』……は、分かりません」

「シリウス」


 王子から固い声が入る。


「スペンサー公爵家は、確か王妃様のご実家ですね」


 指摘すると、王子が困ったような表情になった。


「……うん。だから、次の王妃が出ることはないハズ」


 続けて王妃を出したら、家の力が強くなりすぎる。

 血が近いというより、四大公爵の均衡を保つためにも、認められないだろう。

 だけど、もし他の家に、王子と同じ年頃の令嬢がいなくて、スペンサーだけにいたら……


「スペンサーが黙ってるのは、スペンサーにも殿下に合う令嬢がいないから。それだけだよ」


 いたら、従妹だろうと何だろうと出してくるよ――シリウスが無情に告げる。

 王子が言い返さないのは、彼もどこかでそう思っているからだろう。

 四大公爵家、思ったよりギスギスしてるなぁ……


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