死にたい僕が美味しい料理を作って復讐をした日〜彼女と付き合うこと
東雲三日月
第1話 死にたい僕が美味しい料理を作って復讐をした日
高校で虐められ、酷い扱いを受けてきた僕は、毎年恒例行事として続いているこの学園の生徒全員で行われる遠足にて、復讐を果たすことになった。
現段階で僕は二年生で、虐めは一年生の頃から続いているが、この学校は私立の為とてもお金が掛かっているので僕一人の判断で勝手に辞める訳にはいかない。
僕の家は母子家庭で、正社員として一生懸命働いてくれている母さんの姿を見ているからこそ、辞めずに卒業しなくては駄目だと思っている。
でも、学校が楽しくない! 僕にとって学校は辛いだけ・・・・・・。
そんなある日、気づいたら学校の屋上なんかに僕はいて、柵を乗り越えた先に突っ立って今にでも飛び降りる寸前という状態になっていた。
「待って、お願いだから戻ってきて!!」
その時、僕の知らない女の子の声が聞こえてきて「はっ」となった僕は一旦飛び降りるのを中止する。
「お願い! 私と付き合って・・・・・・死んだら駄目だよ。絶対後悔するから」
そして、二度目に聞こえた彼女の声で柵を乗り越え、屋上に戻った。
︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎絶対後悔するから︎"︎︎僕の心の奥底にその言葉が突き刺さり、気づいたら無意識に戻っていたらしい。
「あれ、僕は一体・・・・・・」
死んでここから消えてしまいたい思いは強かったけど、何故柵を乗り越え飛び降りようとしていたのか良く覚えていなかった。
無意識で動いてしまったことに恐怖を感じつつ、目の前にいる優しい笑顔の彼女に僕は感謝の気持ちを伝える。
「あの、助けてくれてありがとうございます」
「どういたしまして。それにしても、無意識で行動してたなんて凄いわね。私で良ければ相談に乗るから、何でも話していいわよ」
「あ、はい・・・・・・」
「いきなりは無理よね! お互い良く知らないんだもんね。でも、これから仲良くなれば話しやすいと思うの。だから、彼氏になってくれない?」
「えっ、いきなり彼氏ですか・・・・・・」
「いいじゃない。だって貴方は死のうとしてたんでしょう。だったら私と付き合うのは簡単なことよ! 絶対後悔させないから」
「は、はい、分かりました」
それにしても、彼女は僕なんかを彼氏にすることに抵抗は無いんだらうか? この学園にいる生徒は、後輩だろうが先輩だろうが、僕は虐められっ子として有名だから。
僕なんかと付き合ってもプラスになることは思いつかない!! 寧ろリスクしか考えられないので、彼女の行為が理解できなかった。
「あのさ、敬語で話すのは無しだよ! 私達は今から彼氏と彼女なんだからね」
「う、うん、ごめん」
「謝らなくて良いわよ! そうそう、自己紹介がまだだったわね。私は
・・・・・・松永紗菜? 僕はそんな名前の子を知らない。
虐められていたとしても、クラスの把握だけは出来ていたはずだったので、その聞いた事の無い名前に、僕の頭ん中は?する。
「良いのよ! 別に思い出せなくても。私影が薄いだけだから」
そう言うと、彼女は僕の方を見てはにかみながら微笑んだ。
「で、貴方の名前は?」
「あ、っ僕は吉永圭太です」
名乗る程の名前じゃない! 僕は有名な虐められっ子だから、誰もが知ってる名前なだけで・・・・・・というか、松永さんは僕と同じクラスなら知ってる筈なんだけど・・・・・・。
「吉永圭太・・・・・・圭太くんね。これからよろしく。私のことは下の名前で呼んで構わないからね」
「じゃぁ、紗菜さんこれからよろしく」
下の名前で呼んだだけなのに、なんでか恥ずかしくなってしまったけど、目の前にいる彼女はにこにこしていた。
「じゃぁ、圭太くん教室戻ろうか・・・・・・今は授業中だと思うけど、ま! 私に任せといて」
そう言われて授業中の教室にもどることになったのだけど、今は何時間目なんだろう・・・・・・そんなことも分からない僕がいた。
怒られることや、クラスの連中になにか言われることを覚悟しながら三階にある教室に向かうと、先に松永紗菜が入って行った。
・・・・・・ええっ!? そ、そんな! 僕を置いて先に・・・・・・。
暫くすると教室の扉が開いて、中から男の先生が出迎えてくれる。
「もう具合は大丈夫らしいね! でも、まだ保健室で休んでなくて大丈夫なのかい?」
そう言って心配そうに教室に入れてくれたのは数学担当でもあり、クラスの担任でもある黒崎先生。
クラスに入ってからは、他の生徒からは特になんの突っ込みも入らず、すんなりと席に戻ることが出来た。
・・・・・・彼女は先生に何て伝えたのかな?
正直授業をすっぽかして居なくなっていたことを叱られるのだと思っていたので、黒崎先生から心配されたことに驚き、クラスの誰からも突っ込まれなかったことに安堵しながら、僕は彼女を探した。
教室中隈無く確認したものの、何処にも紗菜の姿は確認できない。
・・・・・・︎︎松永紗菜・・・・・・だったよな。
ところが授業が終わりお昼の時間になると
、急に僕の目の前に紗菜が現れた。
「あれ、何処にいたの? 全然わかんなかったんだけど」
「えへへ、私影が薄いからねぇ。それより一緒に屋上でご飯食べよう」
「う、うん」
影が薄い・・・・・・そういう問題じゃないような気がするが、でも、ただ単に探せなかっただけだとするなら、僕は彼女に申し訳ないことをしているだろう。
「ごめんね、紗菜さんのこと探せなくて・・・・・・」
「気にしなくて良いよ!! それより明日の遠足があるんだよねぇ。なら、復讐してやりましょう!」
・・・・・・復讐・・・・・・!?
「う、うん・・・・・・」
・・・・・・思わず返事しちゃったけど、復讐なんて出来ないと思う。
そういえば明日は遠足という名のイベントがあることを忘れていた。
全学年で行われるこの遠足は、毎年大きなキャンプ場に行って飯盒炊飯をやることになっている。
担任でもある黒崎先生が勝手に班分けをしたので一応僕の班もあり、僕の班はカレーを作ると言っていたような気がするのだけど、嫌われ者の僕は仲間に入れて貰えず色々話が進んだので具体的に何をするのか良く分からないまま当日を迎えた。
「おはよう圭太くん! ねぇ、そんなところで何してんの?」
料理以外で火起こしでもやるのかと思っていたら、班から何もするなと支持されてしまい、仕方なく隅っこにある切株で休んでいるところを紗奈に声掛をけられてしまう。
・・・・・・ほっといてくれよ!!
僕は心底この行事に参加したことを後悔している。
「別に、何もすることないから・・・・・・」
「何それ、つまんないじゃん!! じゃぁ、私と組んで一緒にやらない。復讐するんだよね・・・・・・」
・・・・・・復讐って言われても何をすればいいか分からないよ。
「えっ、でも。それじゃ紗菜さんが困るんじゃ!?」
「いいのよ! どうせ私は影が薄いんどから」
そう言うと強引に僕を引っ張って連れ出し、空いてる火起こしの場所へ・・・・・・。
すると、彼女は自分の持ってきたバックを持ち出し、仲から食材を取り出していた。
「あの、ところで、紗菜さんこれから何を作るの? 僕は何も持ってきてないけど」
食材は持ち寄りなのに、僕は任されなかったから何も持ってきていない。
「そうねぇ、とりあえず持ってきた食材で作れる物を作ることにするは・・・・・指示するから手伝って」
「はい・・・・・・」
「じゃぁ、先ずフライパンに洗わずお米入れて、次
にだしを汁入れてから、そこにあるエビ適当乗せて・・・・・・火をつけてくれる」
「はい、でもこれ何ですか?」
「知らないの? パエリヤよ!」
「じゃぁ次・・・・・・こっちのフライパンにオリーブオイル多めとチューブのニンニク少し、半分に切ってあるマッシュルーム、切っといたブロッコリーそれと下処理してきた牡蠣があるから入れて」
・・・・・・これから何が出来るんだろう・・・・・・。
「あの、これ何ですか?」
「これも知らないの? アヒージョよ!」
紗菜さんは料理上手みたいだ! それも僕の知らないものばかり・・・・・・作る物が洒落ている。
それに、全ての工程が入れるだけで完結するので、大変な作業は何も無かった。
「あの、今日はありがとう!」
「えっ、未だ終わってないわよ。はいフランスパン」
「えっ、これは?」
「薄くスライスしてって欲しいの。アヒージョのオイルに付けて食べると美味しいのよ」
「そ、そうなんだ!」
アヒージョなんて食べたことが無いから、食べ方すら知らなかった。
恐る恐る包丁を使い切っていると、何やら僕の周りに生徒が集まり始める。
「松永くんが作ってんの美味しそうだね・・・・・・」
クラスのギャルである里田さんに声を掛けられた。
「どうも、ありがとう・・・・・・ございます」
「食べてもいい?」
聞かれたので、紗菜さんに確認しようと振り返ると、紗菜さんは何処にも居ない。
・・・・・・あれ、何処に?
「うん、味見にどうぞ!!」
許可を得ないまま、里田さんに食べさせてしまった。
「うわぁー、めっちゃ美味しい」
里田さんが食べたのは、今作ったアヒージョで、その声が大きいから、もっと周りに生徒達が集まり囲まれてしまう。
「何やってんだよ!!」
自分の班の人がきて、文句を言ってきたけど、僕の料理を目にするなり、僕達の班が全員で作ったことにされてしまった。
「でも、メインで作ってたの松永くんだよね」
里田さんが僕を見てそう言うと、周りもそうだ! と言い出し・・・・・・。
「ごめん。悪かったよ!」
僕の班のリーダーが謝ると、他の班のメンバーも謝ってくれた。
それからは、里田さんのお陰で皆から料理を凄いと賞賛される。
褒められることに慣れていないので、僕は皆から凄いと絶賛されることに照れまくった。
その後、お昼の時間になったけど、結局紗菜さんは何処に行ってしまったのか戻って来ず。
班ごとに作った料理を発表してから食べるのだけど、洒落ている名前は僕には覚えられず、「大人ランチです」と答えることに!!
でも、誰からも突っ込まれなかった。
一人では食べきれない量だったので、クラスの連中に配りながらご飯を食べた。
それが良かったのか、虐めてきていた連中が僕の所へ来て謝ってきたのだ。
すると、何処にいたのか紗菜さんが戻ってきた。
「良かったね、復讐できて!!」
「うん、ありがとう」
そう言って、僕は彼女を抱きしめようとしたんだけど、手が彼女をすり抜けてしまった。
「えっ、ええっ・・・・・・!」
「しー! 大きな声出しちゃ駄目だよ」
「だって、紗菜さん・・・・・・」
「えへへ、バレちゃったね」
「僕は、紗菜さんが好きです。付き合って欲しいってと思ってました・・・・・・」
「ごめんね、それは出来ない・・・・・・私、もう死んでるのよ! あの屋上で貴方と同じように虐めにあって」
「そんな・・・・・・僕は紗菜さんを助けてあげられなくて・・・・・・」
「良かった。私は圭太くんを助けてあげられた。それに復讐も出来たでしょ」
「でも、でも・・・・・・」
「これから私は成仏するわ!! そしたらまた生まれ変わって来るから、そしたらよろしくね圭太くん」
「うん・・・・・・」
僕は沢山涙した。
彼女の身体がフワッと上空に上がると、そのままフワフワ上がって行く。
僕は紗菜さんが見えなくなるまで上空を見続けた。
「何してんの? 変なの!!」
里田さんが突っ込んできたけど、他の人には紗菜さんが見えていなかったらしい。
☆
あれから、僕は教わった大人ランチをたまに自宅で作って家族に振舞っている。
今は動画で見られるから、下処理とかは動画を頼りに行った。
案外上手く出来ているらしく、妹と両親からは絶賛されている。
──あれから十六年が過ぎ・・・・・・。
僕が三十二歳になり、地域のキャンプイベントに参加した時のことだった。
いつものように大人ランチを作り振舞っていると、そこに高校生らしき女の子がきて
一口食べてから「懐かしい」と口にする。
「あの、もしかして圭太くんですか?」
僕はその時紗菜のことを思い出していた。
「もしかして紗菜?」
そう言うとこくりと彼女は頷く。
「今は
「こっちこそ会えて嬉しいよ。あれから僕は何度か結婚するチャンスがあったけど、紗菜のことが忘れられずに全部断ってきたんだ」
そう言うと、詩織の目から涙が溢れ出ていた。
「なんか前よりもっと美味しいね!! 大人ランチ、えへへ」
そう言って詩織は食べ続ける。
その後だった、一緒に片付けをしている最中、詩織が僕の頬にキスしてきたのは。
「ねぇ、付き合って欲しいの」
「うん、こんな僕で良ければ!!」
こうして、僕達は歳が離れていたけど健全に付き合うことになり、詩織が十八を過ぎ高校を卒業すると結婚をした。
何故か詩織の両親は寛大で、すんなり結婚を受け入れてくれたのだ。
僕は、これからは詩織と一緒に大人ランチを作って行こうと思う。
死にたい僕が美味しい料理を作って復讐をした日〜彼女と付き合うこと 東雲三日月 @taikorin
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