花咲くまでの物語~外伝~ 天は二物を与えるか

国城 花

天は二物を与えるか


ここは、私立静華せいか学園。

家柄、財力、才能を持ったエリートたちが集まる、実力主義のお金持ち学校である。


静華学園の高等部には、「つぼみ」という名の生徒会がある。

静華学園に通うエリートたちの中でも、特に才能に秀でた者たちが集まる。



そのつぼみの一員である皐月さつき凪月なつきは、初夏の気持ちの良い風を感じながらお喋りをしていた。


「僕らって、一応才能に溢れた方だよね」

「じゃないと、つぼみには選ばれないからね」


お揃いのオレンジ色の頭に、少したれ目なそっくりの顔つきの2人は、双子である。


「僕らも、一応運動は得意な方だし」

「勉強も、学年5位だしね」


天は二物を与えずと言う。

天というものは、人に2つも3つも才能を与えてくれないらしい。


しかし、この2人は二物も三物も与えられた人間である。

全国レベルの選手に勝てるほど運動神経は良いし、学力は国内でもトップレベルのこの学園の中で2人とも5位である。

他にも、誰にも負けないと言えるほどの特技を持っている。


「でもさ、僕らだって何もしてないわけじゃないからね」

「才能って、それを支える努力があってこそだよね」

「天才は、1%の閃きと99%の努力らしいからね」

「まぁ、その1%の閃きを生かせないと天才ではないんだけどさ」


カーンという金属音が、晴れた空に吸い込まれて消えていく。


「そんな僕らでもさ、こういうのを見てると、意外と普通なんじゃないかって思うよね」

「比較対象って大事だよね」


2人は、青い空に消えていったボールを目で追いかける。


「これ、何本目だっけ」

「打席に立つごとに打ってるから、5本目かな」

「打率が10割って、何事なんだろう」


2人は、ホームベースに帰ってきた人物に視線を戻す。


「遠くに飛ばし過ぎて、ボール無くしそうだよね」

「相手のピッチャー、完全に心折れてるでしょ」

「敬遠しても無理やり打たれるからね。さすがにかわいそう」


ヘルメットを脱ぐと、漆黒の髪が見える。

ホームランを打ったにも関わらずいつも通りのクールさで、鉄仮面のせいであまり喜んでいるようには見えない。



攻守が変わると、帽子を被り、ボールを持ってマウンドに立つ。

高身長から振りかぶって投げれば、バァン!という重い音がミットに吸い込まれていく。


「…あのキャッチャーの子、手大丈夫かな」

「多分、大丈夫じゃないね」


恐らく、左手がかなり赤く腫れることになるだろう。

今も、何とかやっと取れているという感じである。


どこのプロ野球選手かと思うほどのスピードと重さのボールを打てる打者はおらず、空振り三振で三者凡退をくり返している。


「これ、五回で終わるね」

「もう10点差ついてるからね」


1人で試合を破壊している人物は、2人と同じくつぼみの一員である。


特に運動神経に優れており、今回は野球部の練習試合に助っ人として参加している。

しかし、助っ人の意味があったかどうかは疑問の残る試合内容である。


打席に立てばホームラン。

マウンドに立てば完封。

部員の練習になったかは、はなはだ疑問だ。



「才能って、天から与えられるものかもしれないけどさ」


皐月は、練習試合の破壊神となっているつぼみの仲間に目を向ける。


「きっと、天は人に才能をたくさん与えてるんだよ。でもそれに気付いてないか、生かせなかっただけだと思うんだよね」


皐月が思う「天」は、なかなか太っ腹なのではないかと思うのだ。

きっと、人は「才能」という名前のチャンスをいくつももらっている。

でもその「才能」は、何もしなければただ消えていく。


その才能をどれだけ伸ばせるのかは、その人の努力と、センス次第なのだと思う。



「才能を伸ばせる環境とか、その人のやる気とか、必要なものはたくさんあるけどさ。僕らが思ってるよりも、才能ってそこら辺に転がってると思うんだよね」

「まぁ、そうだね」


凪月は、兄の考えに同意する。


「気付かなければ、才能を生かすことはできないし。生かす機会を逃せば、埋もれるだけだし」


また、カーンという金属音が空に消えていく。

どうやら、6本目のホームランを打ったらしい。


「天が二物も三物も与えてるならさ、二刀流も三刀流も、意外とたくさんいるのかもしれないね」

「気付いていないだけかもね」


試合終了の笛が鳴り、破壊神が破壊しまくった練習試合は終了を告げた。



皐月と凪月は、観戦席から立ち上がる。

練習試合に助っ人として参加すると聞いて面白そうだから見に来てみたのだが、数十分で試合が終わってしまった。


対戦相手の選手たちは、どこかぼんやりとした表情をしている。

ここまで圧倒的な力で打ちのめされたのは初めてだったのかもしれない。


「今回の試合で、いくつか才能潰しちゃったんじゃない?」

「否定できないところが、辛いよね」


しかし、ここで心が折れて諦めればその人の才能はそれまでということだろう。



天は二物も三物も与えるが、二刀流と呼ばれるほどに才能を伸ばせるかは、本人次第。


「この世の中って、実力主義だよねぇ」

「まぁねぇ」


練習試合を1人で破壊した破壊神が一つも汗をかいていないのを見て、この世の世知辛さを感じた初夏のある日だった。


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