《一葉のクローバー》ワレモコウ

車の中は驚くほど静寂に包まれていた。空気が重い。母が入院した日の比ではない。決して気まずいからとかではない。車の中には励ます相手もいなければ、励ます言葉も思いつかない。だから会話がない。


(どうして。なぜ。嘘でしょ?何かの間違いだ!)


頭の中をこの言葉がぐるぐると旋回した。でも、突きつけられた現実を前に、その言葉たちは何の価値もなかった。

すると、いつのまにか僕の膝ににちょこんとザシコが座っていることに気がついた。


「どうしたのじゃ?」


ザシコの声は僕以外には聞こえない……はず。答えてあげたいのはやまやまだが、答えてあげたい気分でもなく、目線を落として


「察してくれ」


と言わんばかりにザシコの顔を見た。車窓から見える景色は、何万回通ったであろう道なのに、まるで初めての景色に見えた。それは家に着くまで感じたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る