最終章

第161話 侵攻開始

「姉さん!そっちに行ったよ」

「任せなさい!」

「あっ!手加減を忘れないでよ!」

「わかってるわよっ!」


「くそっ!俺が何したって言うんだよ!」

「は?何ふざけたこと言ってんのよ!強盗に傷害…立派な犯罪者じゃないの!待ちなさい!このっ!風刃ウインドカッター!」


「ぎゃあぁぁぁ!」

「あっ…」


 小夜の魔法を受けて動けなくなった男の下へと里奈が近づき、癒やしの祈りを施す。


「姉さん…手加減してって言ったよね?」

「したわよ!ちょっと加減を間違えただけよ」

「間違えたって…両手両足が吹き飛んでるじゃないかっ!」

「ごめんなさい…さすがに私の癒やしでは、身体の欠損をすぐに回復というわけにはいかなくて…」

 里奈が申し訳無さそうに謝る。

「里奈さんが悪いわけじゃないから!」

「大丈夫よ。真央から霊薬エリクサーを貰ってるから問題ないわ」

「姉さん…そういう問題じゃない…」


 女神教の本拠地を潰してから、真央さん達は異世界からの侵攻に備えて、世界中のダンジョンを見張っている。

 日本の治安の回復を任された俺達は、今はレベルアップポーションの服用者の中でも、凶悪な犯罪を犯した者たちの取締り…捕獲して治療施設へと搬送する。そんな日々を送っているところだ。


 グラララララララ………


「今のは…?」

「すごい魔力を感じたわ…」

「もしかして…」

「うん。始まったのかもしれない…」

 ―――――――――――――――――

「へぇ〜。ここが異世界か…」

「グラート様!全員、無事転移に成功しました!」

「よし!じゃぁ、始めるとするか!出会ったやつは皆殺しだ!」

「「「はっ!」」」

「強ぇやつがいたら、俺に回せよ?いいな?」

「「「了解です!」」」

 とあるダンジョンの深部に、騎士鎧を纏った集団が現れた。

 ―――――――――――――――――

「ここが異世界なの?随分と見窄みすぼらしい景色なんだけど…本当にお宝はあるのかしら?」

「シャルネ様。我々がご案内いたしますので、その御力をご存分にお使いください」

「もちろん、そのつもりよ。楽しみだわぁ」

 綺羅びやかな衣装に身を包んだ女性を囲むように従者が跪いている。

 世界の壁を超えてダンジョンの中へと現れた女の目には、この世界の全ての財宝を手に入れたいという欲望でギラついている…

 ―――――――――――――――――

「ふぇっふぇっふぇっ…どうやら問題なく異世界へとやって来れたようじゃな」

「マドゥーサ様。これから如何いたしましょうか?」

「ふむ。どうせなら、この世界の住人を解剖してみるかの。儂らとの違いがあるかを見てみたいでな。できれば雄と雌を1匹ずつ…いや複数いたほうがよいのぅ。さぁ、いでよ儂の可愛い子供たちよ!」

 ダンジョン内部に転移してきた老人が呼び出したのは、複数体の人型の魔物達だった。

「行けぃ!お前たちの力をこの世界の住人に思い知らせてやれ!」

 その号令を受けて、魔物達が散開する。その瞳に無慈悲な殺意をみなぎらせながら…

 ―――――――――――――――――

「ほう…ここが異世界か。女神様!もう少々お待ち下され。この世界の者共を贄とし、貴女様へと捧げましょうぞ」

 迷宮の奥深くで、豪華な神官服を着た男が恍惚とした表情で何もない空間に向けて語りかけている。

「おい…おっさん。俺は好きにさせてもらうぞ」

「ふん…まぁ、よかろう。そなたの行動は全てに於いて女神様に赦されておる。好きにするがよい」

「へっ…そりゃどうも」

(女神か…直接会ったことはないが、俺を生き返らせてくれたことだけは感謝してるぜ…)

 豪華な神官服の大神官と、鎧を纏った冒険者風の男がそれぞれ別の方向へと歩き出す。


「まずは、眠りにつかれている女神様の御神体があるはずじゃ。そこへ向かうぞ」

「「「はっ!」」」

 大神官の号令に、神官服を着た集団が答える。

 女神教の全ての神官がここへと集まっていた。


「待ってろよ…真央。くくく…あぁ、その時が楽しみだぜ」

 その瞳に復讐の炎を宿らせた男が、地上を目指し、ダンジョンを進んでいく。

 ―――――――――――――――――

「お前達!わかってるな!」

「「「おおおおおおおお!!!!」」」

「俺達の役割はダンジョンの中の魔物を扇動し、地上へと追いやることだ!」

「「「おおおおおおおおお!!!!」」」

「この世界の全ての物は、俺達の好きにせよと女神様から神託が降りてるぞ!!」

「「「おおおおおおおおおおお!!!!!!」」」

「さぁ!殺せ!奪え!犯せ!ここが我らの新天地だ!!!」

「「「おおおおおおおおおおお!!!!!!」」」


 略奪者と化した粗暴な集団は異世界の冒険者達だ。普段は魔物を狩る側の彼らが、魔物氾濫スタンピードを誘導しながら、動き始めた。

 ―――――――――――――――――

「さぁ、皆の衆!わかっておるな!我が国が引き続き、女神教の庇護を受けるためには、これまで以上の供物を捧げねばならん!」

 演説をしている男の周りには、見窄らしい格好をした人間たち―男も女も、老人から子供まで―が集まっている。

「我らのために、女神様が新たな地を与えてくださったのだ!我々が平穏無事に暮らすため、犠牲となってくれるこの世界の者たちに感謝せよ!この世界に我らの理想郷ユートピアを築くのだ!」

「わぁあああああああ!!!!!」


 力の籠もった演説に、集まった群衆が拍手喝采をもって、答える。

 自分達だけが幸せに暮らすための理想郷ユートピア…そのためならば他者がどうなろうと構わないなどという、自分勝手な主張を繰り広げ、異世界に暮らす普通の村人達も暴徒と化して、この世界へと足を踏み入れた。

 ―――――――――――――――――

 地球上の多数のダンジョンに、異世界イヴィレーデンに繋がる扉が開かれ、その世界に暮らす者たちが、各々の欲望を満たすため、世界を渡る決断をした。


 度重なる戦争で、かの世界の人類はその総数を減らし、誰も彼もが疲弊していた…


 世界の扉が開かれた今、異世界イヴィレーデンに残るという選択をした人類は一人もいなかった…

 ―――――――――――――――――

 あとがき。


 最終章です。いよいよ異世界からの侵攻が始まりました。


 不定期更新で申し訳ないですが、もうそろそろ最後ラストが見えてきました。頑張って書き切りたいと思ってますので、お待ち下さい。


 次回は…

 異世界からの侵攻に対して、真央や仲間たちが動き始めます。


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