第79話 報告
「ほんとに魔物出ないんだね…」
「うん…おにぃが迷宮主を倒したからね」
「そんなことがあるんだね…なら、もう私達は学校ではレベル上げができないってことになるのかぁ…」
そんな会話が聞こえたのか、反発する声もあがってしまう。
「な、何よ、それ!?じゃあ、わたしたちの未来はどうなるのよっ!」
「せっかく頑張って冒険者学校に入ったのに…意味がないじゃない!」
「あなたは、いいわよね!もう十分にレベルも上がって、将来も安泰でしょ?私達の未来を奪っておいてよく平気な顔してられるわね!」
「そうよ!私達の未来を奪ったってことじゃ、あのエルフたちと同じじゃない!どう責任とってくれるのよっ!?」
囚われていた緊張や不安から解放され、いよいよ地上へと帰還できるという安心感からか、彼女らの不満が噴出し始める。
一度口に出された不満は周囲へと伝播し、次々に俺たちを非難する声へと変わっていった。
「おにぃ…」
明璃が辛そうな顔をしているが、
「迷宮主を倒して、ダンジョンを潰していけば、いつかはそういう批判に晒される日も来るとは思っていたけどな…」
「すまない…真央くん…生徒たちには後で言って聞かせるから、今は我慢してくれるか?」
「いいんですよ。いずれこうなることは覚悟してましたから…後のケアは先生方におまかせします」
「ああ、恩を仇で返すような真似をしてしまって、本当にすまない…」
…
気まずい雰囲気のまま、一行はダンジョンを進む。
「あんな言い方しなくたっていいのにね…」
「ちーちゃん…」
「あかりん達が助けに来てくれなかったら、私達殺されてたんでしょ?」
「あたしも詳しくは聞いてないんだ…でも、危なかったのは確かだと思う」
「別に学校のダンジョンがなくなったって、他にダンジョンがあるんだから、レベル上げたいならそっちにいけばいいんだし。人攫いが突然現れるダンジョンが近くにあるって方が私は怖いから、なくなって安心してる」
「ありがとね」
「そうだ!あかりん、今度一緒にダンジョン行こ!引率してよ。にしし」
「うん!」
明璃はいい友達を持ったようだな。今回は未然に防げたけど、異世界からの侵攻が本格化する前に、もっと力をつけないとな…
…
「出口だ〜!」
俺達は演習場ダンジョンから、地上へと帰還した。
外は再び夜の帳が下りている。
「じゃあ、ちーちゃん、またね!」
「うん!あかりんも!ダンジョン探索の約束、忘れないでよ〜」
「うん!」
「真央くん…色々とすまなかったな…落ち着いてから少し話をしたいんだが…」
「いいですよ」
宗次さんからの申し出で、俺達はお互いの連絡先を登録した。
…
(さて、アルス、会長の居場所わかるか?)
(んー…?大きな家?にいるよ)
(ドルフ、アルスの分体を追って転移できるか?)
(…可能です)
(よし、ならまずは会長のところへ行くぞ)
(御意)
「みんな、こっちは宗次さん達に任せて、俺達は会長のところへ戻るぞ」
「わかった」「うん」
「おじいちゃんがどこにいるかはわかってるんですか?」
「ああ、それなら問題ない。アルスの分体を渡してあるからな」
「あ、なるほど」
「じゃあ、ドルフ、頼むぞ」
「お任せください。…影渡り」
俺と咲希、明璃と里奈の4人を影が飲み込む。
…
その頃、神崎政繁は自宅の部屋で情報の整理をしていた。
「やはり、各地で魔物が活発化しておるのぅ…何か原因があるのか…真央くんなら何か知っておるのじゃろうか…?」
思考の海に耽っていると、突然背後の影から闇が吹き出した。
「ぬおっ!!?何じゃ!??」
老いてもSランクということだろうか、咄嗟に臨戦態勢をとり、身構えた。
「すみません、会長。驚かせてしまいましたか?」
「ふぅ…真央くんか…ビックリさせんでくれ、心臓が止まるかと思ったわい」
「ご冗談を…そんな
辛辣な反論をする真央だが、会長の強さを信じているが故の一言だった。
「それで?こんな時間に突然やってくるということは、魔物氾濫のことかの?」
「はい。会長の耳には入れておかなければならない事態でしたので…」
先程とは違って、真剣な表情になった真央の顔を見て、政繁も姿勢を正して話を聞くことにする。
「何があった?」
「実は…」
俺は、異世界の記憶を引き継いだエルフ達がいたこと、エルフから聞いたダンジョンと魔力の関係や、世界樹の存在、エルフ達が迷宮主を使役することで、意図的に魔物氾濫を引き起こしていたこと、迷宮主を倒してダンジョンを止めたこと、それによって学生から非難されたこと、そして魔物氾濫は終息したことなど、今回の事件の顛末を神崎会長へと報告した。
「なるほどのぅ…」
「異世界からの侵攻が本格化するのはまだ先だとは思いますが、念のため警戒を」
「そうじゃな。それとダンジョンが魔力を溜め込むという話じゃが…」
「何かあったんですか?」
「うむ…最近、各地のダンジョンで魔物が活発化しておるとの報告が上がっておるんじゃ」
「なるほど…それは冒険者に人気のあるダンジョンではありませんか?」
「調べてみぬとわからんが、真央くんの話からすると、覚醒した人間がダンジョンで活動することが影響しておるんじゃろうな…」
「さすがに何の問題も起きていないのにダンジョン閉鎖などはできませんしね…」
「うむ。それに、ダンジョンに潜らねば、人は強くなれん」
「ダンジョンの成長と魔物のランクが上がることは、人類の強化に繋がりますけど、問題は、それによって起きうる魔物氾濫と異世界からの来訪者ですね」
「人の多いダンジョンならば、異変が起きた場合、すぐに対処できると思うんじゃが…」
「活性化が確認されているダンジョンを教えてもらえますか?アルスの分体と影狼を派遣しておきます。万が一の場合に転移で対処できますから」
「そうしてもらえると助かるの」
「異世界の奴らの思い通りになんてさせませんよ」
「うむ。儂もこの世界を滅茶苦茶にしようなどとは許せんからの!」
こうして、今回の報告と、今後の対応を話し合い、各地のダンジョンに見張りを置くということが決まった。
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