第68話 記者会見

「えー、おほん。お集まりの皆さま、本日は忙しい中ご足労いただき、誠に感謝しておる」

 パシャッ、パシャパシャ、カシャッ

 神崎会長が、口を開くと、一斉にフラッシュが焚かれた。

「神崎会長!今日は重大な発表があるとお聞きしておりますが?」

「復帰会見というわけではないですよね?」

賢者の秘薬エリキシルをお使いになられたとお聞きしておりますが、秘薬関連の発表でしょうか?」

 記者たちの矢継ぎ早な質問が飛ぶ。

「え〜、確かに儂は生死の境を彷徨い、ダンジョンで発見された賢者の秘薬エリキシルによって一命を取り留めたのじゃが、本日はその件ではない」

 パシャッ、パシャパシャ、カシャッ

「では、一体どのような発表なのでしょうか?」

「神崎会長自らが記者会見を開くと言う事自体、異例の出来事なのですが?」

「え〜…ダンジョン協会、ひいては、冒険者ギルドの当初の発足目的であった、ダンジョンの活動を停止させる方法が判明したのじゃ」

 ざわざわ…パシャッ、パシャパシャ、カシャッ、ざわざわ…パシャッ、パシャパシャ、カシャッ、ざわざわ…

 その衝撃的な発表に記者たちのざわめきとともに、フラッシュが止めどなく襲いかかる。

「そ、それは本当ですか!?」

「判明したということは、すでに活動を停止させたダンジョンもあるのでしょうか?」

「その方法とはどのような手段なのでしょうか!?」

「発足当時はともかく、ダンジョンから得られる魔石はエネルギー問題を解決する希望と言われ始めておりますが、その点はどうお考えですか!?」

 記者たちの質問を遮るかのように、神崎会長は話を進める。

「まずは、こちらをご覧いただきたい」

 部屋の中へと警備員に守られた布の被せられた箱が運ばれてきた。

 神崎会長の前、記者たちから見える位置へと運ばれ、被せられた布が取られる。ガラスケースに入れられていた物は、真っ黒な魔石だった。

 パシャッ、パシャパシャ、カシャッ

「これは、迷宮核ダンジョンコアと呼ばれる物じゃ」

迷宮核ダンジョンコア?」

 記者たちが聞いたこともない言葉に首を傾げている。

「ダンジョンの中で、通常現れる魔物ではなく、異常な強さを持ったイレギュラーが発生することが確認されておる。そのイレギュラーを倒した後に、この迷宮核ダンジョンコアが残されておったのじゃ」

 パシャッ、パシャパシャ、カシャッ

「ちょ、ちょっと待ってください!私の鑑定ではそれは魔石としか表示されないのですが、迷宮核ダンジョンコアという名称はどこから判明したのでしょうか?」

「ああ、それは申し訳ない。この魔石を持ったイレギュラーを倒した後、ダンジョンから全ての魔物が消え、転移陣も機能を止めたのじゃ。その現象を踏まえて、この黒い魔石を迷宮核ダンジョンコアと呼称することになったわけじゃな」

 パシャッ、パシャパシャ、カシャッ

「な、なるほど、ありがとうございました」

「そして、この迷宮核を持った魔物を、我々は迷宮主ダンジョンマスターと呼ぶことに決定したのじゃ」

 パシャッ、パシャパシャ、カシャッ

迷宮主ダンジョンマスター…」

「そ、それはどこのダンジョンから入手された物なのでしょうか?」

「え〜…先日、儂はあるパーティーのランク昇格試験に同行し、その探索の中で迷宮主に初めて遭遇したのじゃが…」

「それでは、そのイレギュラー…迷宮主は神崎会長自らが倒された、ということでしょうか?」

「いや、その時、迷宮主を倒したのが、彼らじゃ。紹介しよう。Sチーム魂の探索者ソウルシーカーじゃ!」

 神崎会長に紹介されるという形で、真央達は、ダンジョンを探索するためのフル装備で記者会見会場へと入室する。

 パシャッ、パシャパシャ、カシャッ

「彼がリーダーの獅童真央くん。レベル74の召喚士じゃ。その隣にいるのが、綾瀬咲希さん。レベル75の武道家じゃな。その隣が、獅童明璃さん。レベル73の魔弓術士で、最後が儂の孫の神崎里奈、レベル67の巫女じゃ」

 ざわざわ…パシャッ、パシャパシャ、カシャッ、ざわざわ…

 俺達の名前とレベル、職業ジョブが紹介されると、再び記者たちのざわめきが会場に溢れた。

「レベル70超え…?」

「そんな昨日まで無名の人間がいきなり世界のトップランカーだなんて!」

「会長!?今発表した彼らのレベルは本当なんですか!?」

「リーダーの彼は召喚士だとおっしゃっていましたが!?」

「彼らのレベルも職業ジョブも、儂が共にダンジョンに潜って確認しておる。間違いはないじゃろ」

 記者たちの中には半信半疑といった感じの者もいるようだが…特に俺が召喚士だというところが信用を落としているんだろうなぁ…別にいいけど。

「彼らはすでに、3つのダンジョンで迷宮主ダンジョンマスターを撃破している実績があるのじゃ」

 ざわざわ…パシャッ、パシャパシャ、カシャッ、ざわざわ…

 更に齎された衝撃の発表に、記者たちが驚く。

「そ、それはどこのダンジョンなのですか?」

「Fランク、スライム道場と呼ばれる罠部屋のあるダンジョン、Cランク、大峡谷のある荒野のダンジョン、そしてAランク、森と草原のフィールドダンジョンじゃな」

「お、おい!確認急がせろ、明日の朝刊に捩じ込めるか!?」

「今から号外出せるか!?え?無理!?バカ!何年この仕事やってんだ!?なんとかしろ!」

 衝撃の発表に記者たちの動きが途端に慌ただしくなる。

 そんな記者とは対象的に、質問をしてくる記者もいた。

「会長!すでに3つのダンジョンが停止したとのことですが、先程のエネルギー問題に関する答えは!?」

 彼はダンジョン保守派なのだろう…

「ダンジョンはエネルギー問題を解決する希望なんですよ!」

 答えない会長へ向かって質問を続ける。そんな記者に苛立つように、ついに口を開くと、

「君は人類の滅亡とエネルギーのどちらが大事なのかね?」

 逆に質問を質問で返した。

「話をすり替えないでいただきたい!」

 記者もヒートアップしているようだが、神崎会長は冷徹に答えた。

「迷宮主とはそれほど強大なのじゃ。彼らがなぜ無名からトップへ躍り出たかわかるかね?敵のレベルがそれほど高かったということじゃよ」

 その迫力に記者は圧倒されているようだ。

「もし、魔物氾濫スタンピードで迷宮主が地上に出てきたなら、おそらく人類は滅亡する。それでも君はエネルギーを優先するのかね?」

「そ、そんな…こと…」

 記者は言葉に詰まってしまった。


 もう話すことはないとばかりに、神崎会長は記者の方から目を背け、発表を続ける。

「んん!失礼。そして、彼ら、チーム魂の探索者ソウルシーカーは儂の直属のチームとして、登録することになったことを、本日皆様へお伝えする」

 パシャッ、パシャパシャ、カシャッ、パシャッ、パシャパシャ、カシャッ、パシャッ、パシャパシャ、カシャッ

 これで締めくくり、発表は終わりだといった感じの挨拶がされ、記者たちのフラッシュも本日最大となる。


 そんな中…

 ブルルルルルルルルル

 明璃のDフォンが、メッセージの着信を伝えた。

「ちーちゃん?え?ウソ…」

 明璃の様子がおかしいので、聞いてみる。

「どうした?明璃?」

「おにぃ…学校の演習ダンジョンがって…」


「は?」


 伝えられた情報は記者会見会場にいた全ての人に衝撃を与えた。

「明璃?おい、明璃!」

 連絡を受けた明璃はまだ状況が飲み込めていないのか、呆けている。

「あ…おにぃ…どうしよう?どうしたらいい?ねぇ!」

「落ち着け。連絡が寄越せるということは、まだそこまで切羽詰まった状況じゃないのかもしれないだろ?先生たちもいるし、生徒だって、無力な一般人じゃないんだから…」

「そ、そうかな?」

 とりあえず、なんとか明璃を落ち着かせ、俺は会長へ申し出る。

「会長!俺達は現場へ向かいます」

「うむ。頼めるかの?じゃが冒険者学校までの距離を考えると、今から向かって、間に合うかどうか…」

「会長、お忘れですか?この前のAランクダンジョンで新たに仲間になったやつのことを…」

「む?そうか…まさか行けるのか?」

「そのまさかですよ」

(聞いていたな、ドルフ!)

(はっ!お任せを)

「すみません、記者の皆さん、今から移動に特化した魔物を召喚するので、離れてください」

 会場にいる記者たちへ、魔物を召喚することを告げる。

「こんなときに、何を言っているんだ!」

「ここで魔物を召喚して何になると言うんだ!?」

 批判が煩いが、それは会長に任せるとしよう。

「ドルフ召喚!」

 俺の目の前に、黒装束に身を包んだ、人狼が現れる。

 周りで息を呑むのが聞こえるが、今はそんなことにかまっている暇はない。

「明璃、咲希、里奈、行くぞ!」

「はい」「うん」「わかりました」

 3人は俺の近くに寄り、ドルフが影渡りを発動する。

 俺達の姿は影の中へと沈み込み、記者会見会場から消えた。

「会長!今のは一体…」

「彼らはどこへ消えたのですか!?」

「落ち着くのじゃ!彼らは、魔物氾濫が起きた学校へと向かったはずじゃ」

「そ、それはどういう?」

「彼が今しがた召喚した魔物は、先のAランクダンジョンの迷宮主だった魔物でのぅ…彼が一度訪れた場所へ影を使った転移ができるそうじゃ」

「転移?転移と言いましたか!?」

「そうじゃ」

「そのような魔物が存在しているなんて…」

「かの魔物は、影から影へと気配を消して渡り歩き、人の死角から襲いかかって来るんじゃ。真央くんがおらねば、儂もそこで死んでおったじゃろうよ」

「そんな魔物をどうやって…」

「何、簡単な話じゃ。彼はその魔物よりも強かった。ただそれだけじゃ」

「…」

 話を聞いた記者が言葉を失った。

「じゃから、先程言ったであろう。迷宮主が魔物氾濫で地上へと出てくれば人類は滅亡する。とな」

 ごくり。

 さっき会長が言っていた、人類の滅亡が決して、誇張ではないと記者たちも気づいたようだ。


「頼んだぞ、真央くん」

 影に消えた真央達に向かって、会長がぼそりと呟いた。

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