第65話 獅子咆哮

 俺は、敵の奇襲によって戦闘が始まったので、テントを収納に仕舞いながら、おそらく繋がるであろう、仲間へ向けて呼びかけた。

(ドルフ!)

(魔王様!?)

(久しいな)

(はっ!再び、魔王様にお仕えできる機会が訪れたことを嬉しく思います)

(頼むぞ、敵は影人狼だ)

(ふふふっ。お任せください。我らの力をお見せしましょう)

「ドルフ召喚!」

 俺の側に魔法陣が光る。

 光が消えるとともに、漆黒の忍者装束に身を包んだ男が片膝をついて控えていた。

「うわ…忍者だ…」

「真央、その人?は…?」

「お初にお目にかかります、奥方様おくがたさま妹君いもうとぎみ!」

「お…奥方様…?」

「い…妹君ぃ…?」

「こいつが、以前話した、魔王軍諜報部隊長で影人狼シャドウワーウルフのドルフさ」

「ドルフと申します」

 挨拶を済ませたドルフはさっと立ち上がり、視線を樹木の影へと向ける。どうやら、あの樹の影に敵の影人狼が潜んでいるようだ。

「ドルフ、眷族は呼べるか?」

「申し訳ありませぬ。全てとはいかないようです」

「なるほど…」

 これは、あれか?遭遇した魔物1体につき、仲間1体が解放されるとかか?なら…

「ドルフよ。奴を追い詰めて、眷族召喚を使わせろ。目標は250体だ」

「御意」

「アルス〜。敵の影人狼のSPが無くなったら、回復させてやってくれ」

「オッケー」

「ちょっと!おにぃ?どういうつもりなの?」

 敵を回復させろという、俺の命令を聞いた明璃が問い詰めてくる。

「前に話したと思うが、魔王軍俺たちの諜報部隊の隊員となる魔物たちは、ドルフの眷族なんだよ」

「そうなんだ…」

「で、そいつらを全員呼べるか?って聞いたら、全員とは連絡が取れないらしくてな…」

「もしかして、そのため?」

「ああ、全員分の眷族を敵に呼ばせれば、こっちの戦力も整うんじゃないか?って思ってな。ただ、眷族召喚にはSP使うからな、敵を回復させてやらないと、足りなそうなんだよな〜」

「真のボスじゃなくても、仲間が増やせるんだ…?」

「同じ種族の魔物と遭遇すること。ってのが解放の条件みたいだな」

「そういうことなら、わかった。私達はすでに呼ばれた影狼を相手にしていればいいってことだな?」

「おう、それでいいと思うぞ。敵のレベルは高いからな、ちょうどいい経験値になるだろ」

 仲間を呼ばせて倒す。は経験値稼ぎの常套手段だからな…

 …

 …

「ま、真央くん!さすがにこれ以上敵を増やされては、こっちでは対処しきれん!」

 神崎会長が状況が厳しいと伝えてくる。

 ドルフとアルスは上手く、敵の影人狼を追い詰めているようだな。しかし、呼ばれた影狼の処理が追いつかないか…

「すまない!俺に考えがあるから、もう少し堪えてくれ」

「真央がそう言うなら!」

「うん!おにぃの考えってのがちょっと不安だけどね…」

「私だって、お役に立てることをお見せします!」

「何とかしてみせるが、あまり長くは保たんぞい」


 さて、じゃあ、あいつを呼ぶか。


(レオン!聞こえるか?)

(ハイ、ゴ主人様マスター)

(そっちの状況はどうなっている?)

(ハッ!現在、冒険者ノ挑戦ヲ受ケテオリマス)

(何?そうか、ちゃんと手加減してるんだろうな?)

(万事抜カリアリマセン)

(まぁ、それはいい。お前の力が必要だ)

(了解デス)

(その冒険者達の攻撃に合わせて送還するぞ。タイミングは任せる)

(カシコマリマシタ)

 …

(今デス!)

「レオンカイザー!送還!」

 遠距離での送還が可能になったことで、荒野のCランクダンジョンからでも、レオンを回収することができるようになった。

「待たせたな、みんな!レオンカイザー召喚出撃!」

 俺の目の前の地面に巨大な魔法陣が光り、レオンカイザーが現れる。

「何じゃ!?」

「新たな敵!?」

 突如として現れた巨大な存在に、里奈と神崎会長は驚いている。

「そいつは俺の仲間だ!みんなは俺の側へ集まってくれ!」

「わかった!」「オッケー」

「わ、わかりました」「何じゃか、ようわからんが…よかろう」

 よし、みんな集まったか?まずは樹々の影から狼共を引きずり出さなくては…

「レオン!焼き払え!」

「了解。輝煌剣…魔力変換マナコンバート

 レオンカイザーが背中の大剣を抜く。

属性変化エレメントチェンジブレイズ!」

 レオンカイザーの剣に伝わる魔力が赤に変わる。

「輝煌炎獄斬」

 横一文字に振るわれた炎の魔力を纏った薙ぎ払いは、森の樹々を一瞬で炭に変え、森の入口に広場と呼んでも差し支えない空間が出来上がった。

 樹々が無くなったことで、その影に隠れていた影狼たちが地上に姿を現す。

「今だ、レオン!獅子咆哮レオハウリング!」

「了解」

 ガオォォォォォォォン!!!

 レオンカイザーを中心にして、獅子の咆哮が放たれた。

 獅子咆哮レオハウリングは敵に恐慌フィアー行動阻害スタン、そして挑発効果を与える。

 姿を現した全ての影狼が獅子咆哮の効果を受けた。

 獅子咆哮によって、挑発を受けた敵の敵意ヘイトはレオンカイザーにダメージを与えない限り剥がれることはない。

 そして、ゲーム等なら、敵の防御力が高すぎる場合でも、1ダメージは与えられるのだが、現実はそんなに甘くないのだ。

 つまり、影狼程度の攻撃力ではレオンカイザーにダメージを与えることができないので、やつらは敵意ヘイトをレオンに向けたまま、永遠にレオンカイザーに群がることしかしなくなるのだ。

 獅子咆哮を放ったレオンカイザーは輝煌剣を地面へと突き刺し、その柄に両手を乗せ、その場で仁王立ちしている。

「これでもう大丈夫です」

 俺のした一連の行動に、唖然とする神崎会長と里奈とは対照的に、呆れた顔をしているのは、咲希と明璃だ。

「こりゃ!真央!ちゃんと説明せんか!全く訳が分からぬではないか!」

 あ…くん付けが消えた…それだけ驚愕したってことだろうか…?

「そ、そうですよ!真央さん…あの大きいのは一体何なんですか?」

「二人共、まだ戦闘は続いているんだから、説明を聞くのは全部終わった後にしてくれ」

「むぅ…それもそうじゃが…それでも納得いかん!」

 正論で返されて、神崎会長は渋々飲み込んだようだ。

「後でちゃんと教えてくれるんですよね?」

 里奈の圧がちょっと怖いぞ…


 俺達がそんなやりとりをしていた時、ドルフから待ち望んでいた良い知らせが届いた。

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