第44話 愚か者の末路

 ※性的描写とグロテスクな表現があります。苦手な方は読み飛ばしてください。次話の冒頭にあらすじ書きます。

 本日2話更新です。

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 咲希の向かったCランクダンジョンは、冒険者ギルドから見て、冒険者学校とは反対方向にある。

 都市部より、少しだけのどかな田園風景の中に巨大な門がそびえ立っている。

 どこのダンジョンも、隣接する建物内で入場手続きをすることで門が開くので、咲希は受付で手続きを済ませる。

「お気を付けくださいね。無事の帰還をお待ちしております」

 丁寧な定例の挨拶を受付より貰ってから、門を潜った。

 目の前には、のどかな田園風景とは全く異なる、殺風景な荒野が広がっている。

 赤茶けた大地はむき出しになっており、辺りには大岩が散見し、段差のある場所には横穴がいくつか見受けられる。


 …

 …

 …


「すごいな…この装備は」

 咲希は、時間を忘れて、順調に魔物を討伐していった。その装備を使った感想が無意識のうちに口から漏れる。

 この、荒野のダンジョンに出現する魔物はオークやゴーレム、ロックリザードなど、耐久力に優れる種族が多い。Bランクの咲希ならば、危なげなく討伐できる魔物達なのだが、今日に限っては殲滅スピードが今までの経験の中で段違いだった。

 普段なら、牽制を交えて、数発〜数十発の拳撃を与えなければ倒せない魔物達が、ほとんど一撃で消滅していくのだ。

 飛竜シリーズに付与されている敏捷性UPの効果によって、敵の動きがゆっくりに見えるので弱点を攻撃する余裕もあり、自身の拳速も上がっている上に、そもそも飛竜の爪の攻撃力が桁外れに高いので与えるダメージが増えている結果だ。

「咲希おねーちゃん…そろそろ休憩にしようよ」

 服の中にいるアルスちゃんの分体が話しかけてきた。

「いや…まだまだ疲れてもいないし、全然いけるよ?」

「ダメだよ〜。マオー様も新しい装備の時はいっつも時間忘れて戦い続けちゃうんだから…咲希おねーちゃんは気づいてないかもしれないけど、少し動きが鈍ってきてるからね!」

「そっかぁ…真央も…アルスちゃんは私の知らない真央をたくさん知っているんだな…少し羨ましいよ」

「えへへ〜。あっちではずっと一緒に旅もしてたしね」

「もっと、向こうにいた頃の真央のこと聞かせてくれるか?」

「うん!いいよ!あっ!あそこの岩の陰が良さそうだね」

「お?そうだな。じゃあ少し休もうか」

 …

 …

「よ、よぉ、咲希」

 岩陰での休息を終え、再び魔物討伐を開始しようとしたところで、一人の男が声をかけてきた。

「なんだ…か。どうしたんだ?こんなところで…」

「あ、あぁ。お前が一人でダンジョンに入るところを見てしまってな…心配になって追いかけてきたんだ。いくらCランクダンジョンだからって、万が一ってこともあるだろ?」

「それは…心配かけたみたいだな…すまん」

「いいって。それより、どうだ?今日は一緒にパーティー組まないか?」

「いや、それは遠慮しとくよ。今は真央以外の人とはパーティーを組みたくないんだ」

 信吾の顔が一瞬だけ歪む…

「そ、そっか…ならさ、この先の横穴に魔物が溜まっている所を見つけたんだ。いい経験値になると思うぜ?」

「へぇ〜。それはいいね!案内してくれるかい?」

「あ、あぁ。こっちだ…着いてきてくれ」

 …

 …

「あれ?魔物なんてどこにもいないけど…ねぇ、?」

 問いただそうと振り向いた瞬間、

 パリィーーン

 信吾が投げた小瓶が咲希の身体に当たって砕け、中の液体を浴びてしまう。

(これは麻痺ポーション?)

 ドサリ。

 麻痺した咲希が仰向けになって地面に倒れ込んだ。


「くくっ…ふふふ…あーっはっは!まさか…こうも上手くいくとはなぁ!咲希ぃ!」

 信吾が高らかな笑い声を上げ、悦に浸りながら話し始めた。

「お前が悪いんだぞ…俺じゃなく、真央あんなやつを選んだんだからなぁ!」

 倒れ込んだままの咲希は、麻痺のせいなのか、一言も喋らない。

「なぁに…痛いのは最初だけさ。すぐに気持ち良くなるって」

 信吾が魔法袋マジックバッグからピンク色の液体の入った小瓶を取り出す。

「これが何かわかるか?淫魔サキュバスの魔石を砕いて溶かした媚薬さ。これを一口飲むだけで、男が欲しくてたまらなくなるんだぜ」

 瓶の口を開け、強引に咲希の口へと液体を流し込むと咲希の目の焦点が彷徨い始めた。

「ここには人避けの結界を張ってあるんだ。誰も来ないから、助けを呼んでも無駄だぜ。なぁ〜に…時間はたっぷりあるんだ。俺なしじゃ居られない身体にしてやるよ。さぁ楽しもうぜぇ」

 信吾は咲希に覆いかぶさるように抱きつき、咲希の装備している服に手をかける。

 強引に脱がすと、穢れのない真っ白な柔肌とボリュームのある双丘があらわになった。

 その姿に興奮した信吾はその膨らみを力任せに揉みしだき、先端の突起に舌を這わせる。

「麻痺ポーションを使ったのは失敗だったか…咲希の反応が聞けないからなぁ〜」

 今もなお、顔を背ける咲希の唇に、信吾は自身の唇を重ね、口を塞いだ。固く口を閉じる咲希の口内へ、自身の舌を強引に捩じ込もうとすると、咲希の口が開き、その舌が信吾の舌と絡み合った。お互いを貪るように求めるようになった今の状況に信吾は歓喜する。


 だが…抱きしめていた咲希の全身が、突然ドロりと溶けた。先程まで絡み合っていた舌だったものが信吾の体内へと侵入してくる。

「オ、オエッ」

 突然のことに嘔吐反射しえずきパニックになる。

 周りを見渡すと、抱きしめていた咲希だったはずのものが、見覚えのある粘性の物体へと変化して、信吾の身体に纏わりついていた。

「こ、これは…真央あいつのスライム?バ、バカなっ!」

 剥がそうと藻掻いても、纏わりついている粘性のそれは段々と体積を増していく。信吾の身体より離れた場所にあった一部が盛り上がり、咲希の顔になった。

「あはは。お馬鹿さんだねぇ。ボクがに気づかないわけないでしょ?取るに足らない小物だと思ったから見逃してたのに…」

「しゃ、喋った?」

「咲希おねーちゃんを危ない目に合わせるわけないでしょ?夢見させてあげたんだから、感謝くらいしてほしいなぁ〜」

 ようやく事態を飲み込めたのか…

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 更にパニックになったようだ。

「そんな騒いでも無駄だよ。人避けの結界が張ってあるから、誰も来ないってが言ってたことじゃないか」

 信吾は自分の欲望を満たすために用意した結界によって助けが来ないことを思い知る。

「い、嫌だ…やめろ…やめてくれぇ〜!!」

 ジワリと身体の一部が溶け始める。

「大丈夫だよ。痛いのは最初だけだからね。すぐに、気持ちよくなるよ。あはは」

 先程自分が発した台詞をそのまま返されて、

「ひっ…」

 信吾の顔が恐怖で青ざめる…

「マオー様がね、殺すなって言ったら殺さないよ。ボクは約束は守るからね!」

 殺さないと言われて、信吾は少しだけ安心したようだが…

「でも、今、ここにはマオー様いないから…ね」

 後に続いたその言葉は信吾に絶望をもたらした。

 咲希の顔をしたアルスの口元が三日月のように細く釣り上がる。

「じゃ、さよなら。」

 その一言を告げた咲希の顔がパァンと弾け、粘性の身体の中に沈む。

「ギャアァァァァァァァーーーー!!!」

 信吾の断末魔の声が響く。だが、それは誰の耳にも届くことはなかった。

 ジュワァァァァ〜〜〜〜〜!!!

 と、まずは身に付けていた装備品が溶けて消え、次に服が消失した。皮膚が焼けただれ、徐々に溶けていく。次に現れたのは、さながら人体模型のような筋肉に覆われた人型。その筋肉の鎧も次第に溶け始める。筋繊維に穴が開き、信吾の体の中に収まっていた臓物がアルスの体内を血に染めながら漂い始めた。そして最後に残された、信吾だった者の骨格標本もやがてアルスの体内で溶けて消える。

 スライムに喰われたら何も残らないという、子供でも知っている常識の通り、信吾は何も残すことなくアルスに吸収されてしまうのだった。


「さて、そろそろ咲希おねーちゃんも起きた頃かな?早く戻らないとな〜」

「それにしても…麻痺したフリってなかなか難しいや」


 そんな独り言を呟きながら、アルスはいつもの少女の姿に戻って、横穴から咲希の待っている岩陰へと引き返すのだった。

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