第42話 Aランクパーティー

 校舎内にある、学生食堂で昼食をとり、訓練場へ向かった。どうやら、この話は生徒達にも伝わっていたようで、模擬戦を見ようと大勢の学生が集まっていた。

 まぁ、普通に考えれば、現役Aランクパーティーの集団戦闘なんて、なかなか見れるものじゃないからな。多分、戦闘にすらならないと思うけど…

「あかり〜ん!こっちこっち!」

「あっ!ちーちゃん!」

 あかりんとは明璃のことだろうか?

 明るめの茶髪ショートヘアの活発そうな女の子が2階の観覧席から明璃を呼んでいる。

「明璃の友達か?」

「うん!いつも一緒にパーティーを組んでる子だよ」

「席取っといたよ〜」

「ありがとー。今行くね!」

 明璃はこっちを、振り返り、

「おにぃ…頑張ってね!アルスちゃんも!」

「おう」

 そして、明璃は友達の待っているところへと駆け出した。

 その後ろ姿を見送り、

「さて、いくか」

 俺は訓練場の中央へ足を運ぶのだった。


 訓練場にはすでに5人の男女が俺を待っていた。その中には真田先生もいる。

「真田。こいつか?」

「あぁ。Aだそうだ」

「へぇ〜。そいつは…」

 真田先生と会話をしていた男が俺を値踏みするような視線を向けてきたが、どうやら眼鏡には適わなかったようだ。興味をなくしたのか、俺のことはもう眼中になどないようだ。

「さて、で?どうするんだ?」

「5対1だ。それ以外は認めない」

「俺は弱い者いじめをする趣味はないんだがなぁ…あんたはそれでいいのか?」

 投げ捨てるような問いかけだったが、俺に選択肢はない。

「はい」

「俺達はあんたが召喚士だと言うことを知っている。なら、こちらも職業ジョブを明かそう。じゃないと、フェアとは言えんからな」

 なるほど、どうやらなかなか人物のようだ。

 彼らは俺に対して、簡単に自己紹介を始めた。

「俺はこのパーティー、緋色の刃スカーレットブレードのリーダーをしている。織田おだ宗次そうじ職業ジョブは侍だ」

「私は真田さなだ真司しんじ職業ジョブって概念がなければあまり大声では言いたくはないがな…暗殺者アサシンだ」

「俺は大岩おおいわ重吾じゅうご。守りの要、重騎士をしている」

「私は赤城あかぎ陽子ようこよ。職業ジョブは炎魔道士よ」

「私は中川なかがわ恵里えり。回復と強化がメインの光魔道士です」

 なかなかバランスのいいパーティーだな。見た感じだと、全員、歳は20代後半から30代前半くらいだろうか?

「俺は獅童真央。召喚士です」


「獅童というと、もしかして、真由子さんの…?」

「母をご存知なんですか?」

「ええ。同じ炎魔道士として、一緒に冒険したこともあるわよ」

「そうなんですね」

 赤城陽子と名乗った女性が母のことを知っているようだ。

「あなたが召喚士だということはわかっているけれど、手は抜かないわよ」

「こちらこそ。召喚士の中にもハズレじゃないやつがいるってところを見せてあげますよ」

「それは楽しみね」

「挨拶はそれくらいでいいだろう?始めようじゃないか」

 俺達はお互いに開始線まで下がり、睨み合うように対峙した。


 審判は他の講師が引き受けてくれたようで、俺に向けて簡単な説明をしてくれた。

「この訓練場にはダメージを肩代わりしてくれるシステムがあるが、すべてのダメージをカットできるわけではないからな、その点は忘れないでくれ」

「わかりました」

 あまり過剰な攻撃は控えたほうが良さそうだ…

「では、模擬戦、始めっ!」


「まずは俺からだ!挑発タウント

隠形ステルスハイド

「明鏡止水…」

魔力集中マナコンセントレイト

強化バフかけます!範囲速度強化スピードスター!」


 戦闘開始と同時に受けた挑発スキルによって、俺の意識は重騎士の男へと惹きつけられた。

致命の一撃アサシネイト

「居合、一之太刀…月影!」

 意識が重騎士の方へ向き、他のメンバーへの注意が逸れた時、

 光魔道士の速度強化によって、速度を増した前衛の二人が俺との距離を詰めた。

 背後から気配と姿を消したままの暗殺者アサシンが俺の首を狩るように必殺の一撃を放つ。

 同時に、精神を研ぎ澄ませ、鋭さを増した居合の構えから放たれた横薙ぎの一撃が俺の胴へと吸い込まれた。

 この間、俺は微動だにしていない。いや、そもそものレベルが違いすぎるため、相手の動きが全く見えず、反応すらできなかったのだ。


 誰もが、あっけない幕切れだと思った。それほど完璧な連携で、相手の隙をついた攻撃だった。…だが。


「なんだと…?」

「私の隠形は完璧だったはずだ…」

 二人の斬撃はアルスの分体によって体に触れる寸前で受け止められていた。

 攻撃が受け止められた動揺はあったが、視界の隅で仲間が攻撃の準備を終えていることを確認した宗次が号令を出す。

「散っ!」

 宗次と真司はその場から一瞬で退避する。同時に炎魔道士の陽子が最後の呪文キーを唱えた。

炎の柱ブレイズピラー

 俺の足元から、勢いよく燃え盛る炎の柱が立ち上がった。

「やったか?」


 避けるでもなく、確実に魔法の直撃を受けているのだ。

「そんな…嘘でしょ?」

 魔力集中からの炎の柱はAランクモンスターですら一撃で屠る威力があるのだ。

 だが、炎の柱が消えた時、そこには無傷で立つ真央がいた。


「どういうことだ?」

「魔物を召喚した気配はなかったぞ?」

「いや…俺は確かに見た。あれはスライムだ」

「スライムですって?」

「まさか…常に召喚状態を維持しているのか…?」

「そんなことをすれば魔力枯渇で倒れてしまいますよ!」


 なるほどAランクは伊達じゃないってことか。アルスに気づくとはな。アルスの分体は、常に俺の服の中にいるが、その察知能力の高さで全ての攻撃に対処する。

 物理魔法、状態異常、すべてを防ぐ最強の盾だ。点の攻撃も、面の攻撃もアルスなら完全に防いでくれるのである。


「なるほど。言うだけのことはあるようだ」

「確かに防御は厄介だな」

「でも、守っているだけじゃ勝てませんよ」

「油断するなよ」

「ええ。これで終わりというわけはないでしょう」


 流石だな。切り替えが早い。

 なら、次はこっちの番だな。俺は控えている本体を召喚する。


「アルス。召喚おいで

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