第41話 冒険者学校

 明璃の通っている冒険者学校は、冒険者ギルドの最寄り駅から電車に乗って30分くらいの場所にある。

 敷地内には校舎の他に、訓練場、研究棟、演習場、寮がある。

 校舎では冒険者に必要な知識を得るための座学の他に、普通科高校で教えている一般教養科目の授業もある。冒険者だからってダンジョン知識だけ身につければいいというわけではないらしい。

 訓練場は、普通の高校でいうところの運動場グラウンドと体育館だ。普通高校と違うのは、強固な結界が張られており、武器や魔法を使った講義があるという。最新設備では、領域内のダメージを肩代わりするような装置が開発導入されているそうだ。まぁ、肩代わりできるダメージ量には限界があるようなので、それは今後の発展を願うばかりだが。その設備導入前は怪我する生徒が後を絶たなかったため、医療施設は充実しているとのこと。

 研究棟とは、クラブ活動の部室棟と考えるとわかりやすい。ここではダンジョンに関する研究、実験、考察、開発など日夜様々な研究がされている。とはいえ、あくまで学生レベルなので、そこまで複雑なものはないのだが。その他にはダンジョン活動をメインにしている部の控室ミーティングルームとしても使われている。

 そして、演習場とは、ズバリ、ダンジョンである。この学校の敷地内にはダンジョンがあるのだ。演習場ダンジョンはランク変位型であり、入口はランクFで最奥はランクCとなっているのだ。ほとんどの生徒はこの学校の卒業時にはランクD〜C冒険者の資格ライセンスを得ることができる。

 最後は寮だが、ダンジョンを伴った冒険者学校はまだ全国でも数が少ないため、この学校には寮があるのだ。当然、男子寮と女子寮とがあるのだが、明璃は家から登校しているため、寮のことはあまり詳しくはないそうだ。


 校門横の守衛さんに来校の目的を告げる。生徒の場合は学生証の提示、付き添いの家族の場合はここで入校許可証を貰って、見える場所に所持しておく必要があるらしい。冒険者登録をしている場合はダンジョンへ入る時のように、冒険者資格ライセンスを登録するだけで許可が下りる。特に問題はないので、俺達は申請するために教員室へと向かった。

「失礼します!冒険科1年A組、獅童明璃です」

 元気よく、所属を告げて、部屋の扉を開ける。

真田さなだ先生はいらっしゃいますか?」

 と聞くと、奥の机から一人の男性がこちらへ向かって歩いてきた。

「なんだ?獅童。何か用か?」

 おそらくこの人が真田先生という人物なのだろうな。

「はい。兄のダンジョンアタックに同行することになりまして、休校の申請をしに来ました!」

「なに?」

 ダンジョンアタックの申請による休校というのは確かに認められてはいるが、実際に申請する生徒はほとんどいないのだ。

「君は確か、Dランクだったな?アタックするダンジョンはどこの予定だ?」

 その問いに、明璃は目を泳がせた…俺の方を見るので、それは俺が答えるとしよう。

「フィールド型のダンジョンへ行くつもりです」

 突然口を挟んだ俺に、訝しげな視線を向ける真田先生。

「失礼だが、あなたは?」

「明璃の兄で、獅童真央といいます」

「そうでしたか。では、あなたのダンジョンアタックに妹さんを連れて行く。ということですか?」

「ええ。そういうことです」

「ふむ…この付近にあるフィールドダンジョンだと、荒野のCランクダンジョンですか?」

 どうやら、Aランクダンジョンだとは思われていないようで、最初から候補から外れているのだろう。

「いえ、Aランクのフィールドダンジョンに行くつもりです」

「何をバカなことを…獅童はDランクなんですよ!Aランクのダンジョンアタックに同行させるなんて、正気の沙汰とは思えない!そもそも、ランク制限があるから、Dランクでは侵入の許可が下りないでしょう?」

「そこはギルドで確認しました。Aランク昇格試験のパーティーメンバーとしてなら同行は可能です」

「Aランク昇格試験…?失礼を重ねますが、あなたの職業ジョブとランクを聞いてもよろしいですか?」

「私はBランクの召喚士ですよ」

「Bランクの召喚士…?本気で言っているのですか?…なら尚の事、許可を出すわけにはいかない。私の大切な生徒をみすみす死地へと送るための許可なんて出せません!」

 そうか…召喚士というのはこういうことでも蔑視されるんだな…

「先生!兄は普通の召喚士とは違うんです!Sランクの麗華さんからも実力を認められている召喚士なんです!」

 明璃が真田先生に反論する。

「おい、獅童?何を言っているんだ?召喚士だぞ?普通も特別もないだろう?少し勉強が足りないようだな!」

 真田の言い分に、明璃が憤慨している。

「ならば、召喚士の実力を証明できれば、妹にダンジョンアタックによる休校の許可をいただけますか?」

「そのようなこと、するだけ無駄だとは思うが…それであなたが納得するならば、約束しましょう」

「それで、何をすれば私の実力の証明になりますか?」

「ふむ…我が校の講師陣は、現役のAランクパーティーなのですよ。そのパーティーとあなた個人との模擬戦というのはどうですか?」

「そんなっ!先生っ!パーティー対個人の模擬戦なんて聞いたこともありません!無茶ですよ!」

「AランクダンジョンにDランクを連れて行こうとするくらいだ。そのくらいのハンデを乗り越えるだけの実力がないなら、到底認めることはできないぞ。特別な召喚士なのだろう?」

 その説明に明璃は反論することができずにいる。

「ええ。いいですよ。それで許可が貰えるのでしたら、やりましょう」

「おにぃ!」

「明璃はアルスが戦うところ見たことなかったしな、丁度いい」

「どうやら、話は纏まったようだな。では私は講師のAランクパーティーへ話を通してきましょう。模擬戦は午後の最初の講義の時間に訓練場でやりましょうか」

「わかりました」


 こうして、冒険者学校のAランクパーティーとの模擬戦をすることになった。

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