第6話 魔王軍の幹部達
「これは、どういうことだ?」
俺の問いに、頭を垂れて跪いていた黒髪で執事服を着た男が顔を上げ、答える。
「我が君。ご命令通り、世界中に散っていた影も含めて、全軍集結いたしました。ですが、皆の気持ちは堅く、勇者を迎え撃つべく出撃したのです」
俺を見るその金色の瞳は命令を破ったことに対する罪に揺れていたが、それに対するどんな罰も受け入れる覚悟があると物語っていた。
彼こそはあらゆる魔術を使いこなす、天より堕ちし
「なんだと…?」
俺の命令に魔物達が従わないなど200年生きてきて初めてのことだ。
「貴様はそれを止めなかったと言うのか?」
ルーファスはただ一言。
「申し訳ございません…」
と答えるのみだった。
俺が二の句を告げられないまま、暫し呆然としていたところ、別の男が口を開いた。
「殿!
彼は武人だ。黄金の髪を頭の後ろで結い、引き締まった筋肉の鎧に袴姿。腰に
その名はジークヴルム・バハムート
「ならぬ!」
その申し出に対して、怒気を強めて否を告げる。
「ぐっ…」
その怒気に当てられ、怯むジーク。
俺が生み出した全ての
ならば、俺の持つ呪いにも等しい制約が科せられる。
勇者と戦うとなれば、全てのスキルは無効化され、能力値も激減させられ、相手への攻撃も不能となる。
それ即ち、無抵抗で殺される未来しか待っていないのだ。
本来なら、この場に全魔物を集結させた後、俺の最期の言葉を伝えて、俺が勇者共を抑えている間に皆を別の地へと避難させるつもりでいた。
その為の集結命令だったのだ。
奴らの目的はあくまで、俺1人の生命だ。俺だけは定められた運命によって勇者との邂逅は避けられないのだが、配下の魔物達ならば生き残る道はあるはずだ。
以前は世界の何処かで配下の
今では、誰一人として犠牲になって欲しくはないという気持ちが強いのだ。
全軍が出撃してからどれだけの時間が経ったのかわからないが、
おそらくもう…
一縷の望みをかけて、ステータスを開くも、そこに記されていたのは、支配魔物数5という無情な数字だった…
絶望に打ちひしがれている俺に声をかけてきたのは、
蒼い瞳で蒼銀の長髪が美しい、丈の短い和装を着流した女性だった。
「魔王様…魔王様の御心は我ら一同理解しているつもりです。それでも尚!魔王様亡き後の世界に生きるよりも、魔王様の盾として、その身を捧げたいと皆が同じ気持ちで出撃したのです」
その頭の上にある、三角の獣の耳はいつもならピンと立っているのだが、今はへニャリと伏せられている。モフモフの尻尾は元気なく、申し訳無さそうに垂れている。
「命令に背くことになってしまいましたが、我らの中に魔王様への忠義の心を持たぬものはおりません。どうか彼らの気持ちを汲んではくださいませんか?」
命令に背いて出撃した魔物達を許してほしいと懇願する女性。その正体は魔獣を率いる者、
彼女の名はシルヴァリーナ・フルムーン。
満月を背に空へと吠える彼女の姿が美しかったので付けた名前で愛称はリーナだ。
みんなの気持ちは嬉しく思う。
それでも、この地獄のようなクソッタレな世界の中で、俺と共に生きてくれた皆を死なせたくはなかった…
できることなら皆が生きて幸せになる未来を掴んで欲しかった…
そう思うのは俺のわがままなんだろうか…
そんな俺の心情を察してか、労るような優しい声が耳に届いた。
「皆、魔王様が好きなのです。魔王様のいない世界など何の価値もないと思うほどに。このまま死地へと赴かれると言うのならば、私共もご一緒させてくださいませ。最期のその時までお側にいさせてください」
悲痛な顔をして懇願するのは、先程、微睡みの中より目覚めさせてくれた可憐な少女。生と死を司る
そんな俺達の会話を黙って聞いていたのだが、ついに感情が耐えきれなくなったのだろう…
「うわぁ〜〜ぁぁぁ〜〜んん!!ボク…ボク、魔王様が居なくなっちゃうの嫌だよ!魔王様を守るためにボクは生まれてきたんだもん!今度こそ、ボクが魔王様を守るんだ!だから…だから、ボク達を置いて行かないで!」
泣きだしてしまった彼女は、小柄な体躯に青い
彼女こそ、俺がこの世界に来て、初めて生み出した魔物であり、俺を庇ってその生命を散らした、スライムのスラの生まれ変わりなのだ。
あの時、消えゆくはずだったスラの魂は、この世界に初めて産んでもらった誇らしさと、名前をつけてもらった喜びと、楽しかった旅の日々。そして、主を守れなかった悔しさと、弱い自分に対する怒り。その原因となった冒険者への憎しみ…様々な感情が
俺が新たに生み出したスライム種はスラの魂を、想いを引き継いでいたのだ。
そして、その願いを叶えるべく、俺は真・魔物作成を使い、進化を促した。それを受けて彼女は
そんな彼女に俺が与えた名はアルス・グラトニアという。
はぁ…
ここまで言われたなら、俺も覚悟を決めないといけないな…
「わかった。お前たちの気持ちは痛い程伝わったよ…」
俺の言葉に5人は顔を上げ、喜びを噛みしめて、やる気に満ちた表情を浮かべた。
「では!」
「あぁ。先陣を切って散っていった仲間達に報いるためにも」
「はい」
「この先に待っているのは処刑台だが…」
「委細承知!」
「共に行こう」
「うん!ボク頑張るよ!」
「お前達の生命、俺にくれ」
「えぇ。喜んで!」
“【
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