ハズレ職業の召喚士〜かつての魔王は最強の魔物達を召喚します〜
ファマ
【序章】魔王転生編
第1話 魔王転生
「…ま、…さま、…魔王様…」
優しく呼びかける声が微睡みの中にあった俺の意識を呼び覚ます。
目の前にいるのは白銀の髪に真紅の瞳、赤と黒を基調としたドレスを着た可憐な少女だった。
しかし、次の一言が何を意味するのかを知る少女は、躊躇いがちに口を開いた。
「勇者が…来ましたわ」
「そうか…」
短く答えた俺の言葉を聞いた少女は涙をこらえるかのように顔を歪めた。
あのクソ女神にこの世界に落とされてから、もう200年。
俺の心に浮かぶのは、ついにあのクソ女神を討つことはできなかったという後悔と、
ようやくこの牢獄みたいな人生を終わらせることができるという安堵だった…
俺を起こしてくれた彼女は先に行くとだけ告げ階下へと降りていったので、俺は身支度を整えることにする。
魔王の装束に身を包み、玉座の間へと向かおうとした時、
ふと鏡に映った自分の姿が目に入った。
無造作に腰まで伸びた灰色の髪と頭の左右に生える二対の角。
瞳の色は黄金色に輝き、額にある3つ目の目は今は閉じている。
200年間変わらないその姿だが、自身の姿を見るたびに、女神に対する怒りが胸を焦がす。
………
200年前のあの日、俺はこの世界に転生した。
魔王として。
………
その頃の俺の名は、
容姿も勉強も運動も、ごくごく平均程度の、どこにでもいる普通の男子高校生だ。
どちらかというと、趣味は若干インドアに偏り気味で、漫画やアニメやゲームは好きだったし、異世界転生などのライトノベルも好んで読んでいた。
まさか自分がそれを経験することになるなど、夢にも思わなかったが…
あれは、ある晴れた日のことだった。
真新しい制服に袖を通し、この春から通うようになった、まだ慣れない通学路を歩いている途中で、俺はその事故に巻き込まれたのだ。
ズガァァアアァァーーーンンン!!
突如として背中に激痛が走り、空中より飛来した何かが、俺の身体を貫通し、地面へと落ちた衝撃音だった。
「ゴ…ゴポッ…」
地面にできたクレーターの真ん中で倒れ込む俺の口から、ドロリと溢れた真っ赤な液体が自分の血であると理解したとほぼ同時に俺の意識はブラックアウトした…
(真っ暗だ…)
一体何が起こったのか、まったくわからないが、
今の自分の状況は、何もない真っ暗な空間に浮いているのだ…
(ここは…どこだ…?)
さっき起こったことをどうにか頭の中で整理して、理解しようと試みる…
(俺は死んだのか…?)
問うてみても答えなど返ってくるわけもなく…
『ええ。そうよ』
(!!!)
『この私に選ばれたのだから、光栄に思いなさいよね』
どこからともなく聞こえてきた女性の声と共に、真っ暗だった空間が眩しいほどの光で満たされた。
あまりの眩しさに目を瞑ってしまった俺が、再び目を開けたとき、辺りの様子は一変していた。
何もなかった空間が神殿?のような場所に変わっていたのだ。
キョロキョロと視線を動かしていると…
『どこを見ているのかしら?』
先程の女性の声がまた聞こえた。
『まったく…これだから野蛮な世界の人間は嫌よね…神に対する礼儀も知らないのかしら…?』
(神?)
先程までは確かに何もなかったし、誰もいなかったはずなのに、
いつの間にか、綺羅びやかな椅子に腰を掛けた美女が自分を見下ろしていた。
『まぁ、いいわ。お前には私の世界へと転生してもらいます……魔王として』
(おぉ!異世界転生キター!!…ん…?魔王として?)
「あの…女神様…魔王として…とは?」
『誰が口を開いていいと言ったのかしら?はぁ…本当に礼儀知らずね…』
『愚鈍な野蛮人には理解もできないでしょうから、特別に教えてあげましょう』
その後、女神様…いや、このクソ女神が語った話は衝撃だった…
曰く、自身の管理する世界にはどういうわけか、勇者が生まれてこないのだとか。
数多ある、神々が管理する世界の中で、勇者が存在する世界というのは、ワンランク上のカテゴリーに位置するのだそうだ。
で、手っ取り早く勇者を誕生させるためには世界に魔王が居たほうがいいらしい。
かと言って、自分の世界に魔王が誕生してしまうのも嫌だという。
なら、どうすればいいか…
他の世界から要らない魂を引っ張ってきて、自分に都合のいい魔王にしてしまえばいいと考えたわけだ…
『どう?頭の悪いお前でもわかってくれたかしら?』
(なんだそれは……)
(つまり…つまりこいつは…)
(俺を殺しやがったのか…)
俺が内心、怒りに震えていると、目の前のクソ女神がさらに信じられないようなことを言ってきた。
『お前の役目は、勇者が生まれるまで生きること。そして勇者に討たれて死になさい』
!!!
「ふざけ………」
相手が神だとか知ったことか!
激情に任せて怒りをぶつけようとしたとき…
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………
空間が揺れた。
『ちっ!もう気付かれたのね…まったく…これだから頭の堅い爺は嫌いなのよ…』
そう愚痴るクソ女神が腕を振るうと俺の足元に魔法陣?が浮かび上がった。
「ま…待ちやが…」
俺の声はかき消され、身体も光とともに消滅した。
『あ、そうそう。勝手に死なれちゃ困るし、私の世界の住人へ危害を加えられても困るから、いくつかスキルを付与しておくわ。感謝しなさいよね!』
最後にクソ女神のそんな声が聞こえたような気がして…
俺は異世界に転生した。
魔王として。
『おのれ…間に合わなんだか…すまんのぅ…真央くんや。必ず元の世界に連れ戻してあげるから、どうか待っていておくれ…』
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