私の永遠

第1話 私の懺悔


 テレビに出ている人たちはきっと人間ではない。もし彼らが人間だとするならば、こんなにも醜く愚かでどうしようもない私は何と表現すればいいのだろうか。


 私はテレビを見て卑屈にもそう思った。こんなにもだらだらしているのだから愚かなのだと理解しながらも行動する気は起きない。


 私はそんな私が嫌いだった。だからこそ死にたくてたまらなかった。


 いつからだろう。ベランダから見える地面がこんなにも美しく見えたのは。呼んでいるのだ。飛べと。飛んで、それからしんで、楽になれよと。私を誘うのだ。


 「……。」


 私には何もない。長所と呼べる代物の一つさえ。しいて言うならば自分の短所を見つけるのが得意で、他人の長所を述べるのは得意だった。だがそれは私と比べてしまうと他の人が比較的に良くなるからであり、そもそもそんな長所があった所で何の役には立たないのだ。


 運動が苦手だ。ボールはあらぬ方向に跳び、よく人にぶつかりファールを取る。多人数では役割という責任を課せられるのが怖く、いつも怯えていた。


 歌も下手だった。気が付いたのは小学4年の頃。それが起きたのは音楽の合唱の時だった。早い人は声変わりが起きるころ合いで、私は音痴だと教えられた。自覚がないのがまずかった。自信満々な私がそれに気づいたときのショックはあまりも大きかった。かといって声変わりのせいだけかというとそういうわけでもなかった。カラオケで11点という意味の分からない点数をたたき出したこともあることから、どうやら音程が取れない極度の音痴らしい。


 音痴と言えば、方向音痴でもある。道を知った気になり友を犠牲に何時間か迷子になった。一度でいいがそれをなんどか。それとバイクで走る際中、右折、次に右折、さらに右折。とうとう同じ場所へ戻ってくるという考えれば当たり前なことを やらかしたこともある。文明の機器であるGPSがあるのがありがたい。


 あと臆病だ。人と関わるのが怖い。知っている人と外であるのを避けてしまう。だから友達は少なく、いつだって誰かと距離を置いてしまう。陰キャ、そう世間ではそういうらしい。


 と、あげたらきりがないほど短所が出てくる。三日坊主で不細工で、と自分を責める材料が盛沢山だった。


 こんなはずじゃなかった。


 そう思うのが学生の頃ならばよかったのだが私は二十歳を超えてしまった。俗にいう大人になったのだ。


 学生ならば誰かにきっと相談でもすればいいのだろう。実際私はそのころに相談を誰かにすべきだったのだ。だがもはや遅すぎたのだ。子供だった歳月は過去になり、大人の責任を持てないがレッテルだけは張られたのだ。


 中学だが高校の頃だが私は思っていた。まだ子供なんだからと大人はいうが、同時にもう大人なんだからともいう。そんな矛盾した言葉は馬鹿らしいと私は自作の詩につづった。


 だが今はどうだ。大人の癖にして子供はよかったと、手にすることのできない過去にすがって前を向けず、また何年か経ったある日、あの時後悔しているだけの自分はバカだった、などと同じように後悔だけをするのだろう。


 ほら、子供と大人の中間の私はもういない。だが、大人になった私も居ない。


 大人とはなんだ。責任を持って働いていることか。だが私は大学を除籍になりただのニートのようなものだ。なにしろ誇れるとこもなければ誰かを守れる勇気もない。


 『かつての子供』そう呼ぼう。大人でも子供でもなくなった私はかつての子供なのだ。


 朝起き、動き始めたと思えば昼になり、行動を始め終えたら夜になる。そしてまた寝ては朝になり、次の日を繰り返す。


 なにかしなくてはいけないという心を胸に持ちながら明日からなどという邪念に心を奪われ、1週間、1か月、1年。時間は過ぎる。


 中学の頃だ。私は私が変わらなくてはならないと思ったのは。あれからもはや何年が経ったのだろうか。ただ私は全力で後ろを向き続けただけに過ぎない。


 人間失格という本がある。私は呼んだことは無いが、もし仮にその言葉がそのままの意味で人間としての価値がないという意味ならば、それはきっと私の事を指しているに違いない。


 死にたい。ふとそう思う。そしてたまに強くそう思う。


 今頃はみんなどうしているのだろうか。一瞬そう頭によぎる。だが今の私は到底彼らに合うにふさわしい姿ではない。きっとその姿を見たらたちまち自分とのギャップに鬱になるだけだ。


 いやそもそも私の事を覚えているひとはいないか。


 「……。」


 気づけばまた日が沈んでいる。


 「……。」


 いつまでもこうしているわけにはいかないのは分かっている。


 「……。」


 毎日なにも変わらない後悔を捧げるだけの日々は永遠にも思える。


 「……。」


 だがそれは永遠ではない。きっと終わりが来る。


 だから私は永遠を望む。なにもない、この苦しい日々が永遠に続けばいいのにと心に思う。


 明日に希望はないのだから。


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