7

もし何かあれば私を頼りなさい。




あの時、父と母の形見を受けとった時、帰り際、長老は私にそう言った。


一度助けられたのに二度も助けられるわけにはいかない、


そう思っていたが、


誰も殺されないためにも長老に相談したかった。


私が事情を話すと長老は大きくうなづいた。


「よくぞ我慢して、王宮を出られた。後はまかせなさい」


「彼女を助ける方法があるんですか?」


私は驚いた。


「ある。 君は王の言う通りにしなさい」


彼女を助ける方法を教えてもらい、私は長老に深々と頭を下げた。




次の日、軍とともに出発した。


彼女のいる場所に心あたりがあった。


だから出発した次の日に見つかった。


ある町の市場に彼女はいた。軍にまず一人で会いに行けと言われた。



彼女は私を見て一瞬驚いたが、すぐに笑顔になった。


その笑顔を見て、私は顔を少しうつむけた。



市場を離れ彼女とふたり、しばらく野道を歩いた。





そして、私だけ歩みを止めた。



一歩、二歩、彼女が先に進んでいく。



私は手を伸ばし、後ろから彼女の左手首をつかんだ。



彼女は振り返った。驚きの表情を浮かべていた。



「私は国王のスパイだ。君を捕まえにきた」



そう言った私に対して、彼女は何も言葉にせず、ただ私の顔を見つめていた。


その見つめる目から涙がこぼれた。


私は何か言いかけようとして口をつぐんだ。



兵に彼女が連れていかれる。


連れていかれる途中も彼女は私をずっと見ていた。







誰もいなくなった。


私は近くにあった石の上に腰掛け、


空を見上げた。




後はお願いします、と心の中で言った。







それから



長老のおかげで彼女は助かった。


彼女がいなくなったことで国中で大騒ぎとなり


深い落胆と怒りでうずまいていた。それほど彼女は皆から嫌われてしまっていたのだ。


ただ魔力があっただけで




そして数日後、


私は礼を言いに長老の家を訪ねた。



「無事彼女は国を出たよ。君には酷な決断をさせてしまった」


立ったまま、窓からの景色を眺めていた長老はそうつぶやいた。



「いえ、大丈夫です」


テーブルの椅子に座る私はそう答えた。




長老が彼女を助ける方法を教えてくれた時、


最後に言いづらそうに私にこう聞いた。


「君がスパイではないことは彼女には教えず、国から逃がしたいと思うのだが」


もしもスパイじゃないことを彼女が知ったら、私のところに戻ろうとするかもしれないのでそれは危険だと、長老はいう。


それに対して私は


うなづいた。


だけど彼女が真実を知ってもし帰ってきても、私は彼女に会わせる顔がないと思った。


彼女に私は助けられた。


なのに私があの日、魔力を使ったせいで


彼女は危険にさらされ、生まれ過ごしたこの国から出ていかなくてはならなくなった。 


それはもう紛れもない事実なのだ。



「確か、魔力判定師になれと国王に言われておったな」


長老は私のほうに顔を向けた。


「はい、魔力を持ってると疑われる人が見つかれば、王宮に呼ばれ、その人の魔力判定をさせられます」


「……そうか」


「私のせいで誰かが殺される。それは絶対避けたいのですが、家族には軍の見張りがついておりますので……」


「だが……きっとそれは大丈夫だろう。彼女の魔力は偉大すぎた」


長老のその言葉の意味を


私はすぐに理解できたので


あえて聞くことはしなかった。

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