二刀流

ひぐらし ちまよったか

にとうりゅう

「――いや、本当にわたくしどもはツイている!」


「うむ、そうだのう……武者修行の途中、ふらりと立ち寄って良かったわい!」


「ささ、お武家様! もう一献……」


「お! すまんな村長! お、ととと……」


「まさか、お武家様のような、お強そうな方が偶然この村に立ち寄ってくれるとは……神のおぼし召しと云うやつでしょうかねぇ?」


「そうかもなぁ……たしかに、強いよ? ワシ」


「そうでしょうとも! そのご立派な身なり! これよりは是非『勇者様』と呼ばせて下さい!!」


「ぬふっ……! 『勇者』か? まあ、呼びたければ勝手に呼ぶがよい!」


「ははぁ! ありがたき幸せ!!」


「――さて、村長? それで、ワシに退治してもらいたい魔物とは何じゃ? ゴブリンか? オーガか? まさか、こんな田舎に……サイクロプスは居るまい?」


「はい、竜です!」


「……は?」


「竜です」


「……いや……竜……? 竜というと……あの竜?」


「はい、あの竜……ドラゴンです!」


「いやいやいや! こんな田舎に!? 竜? いるの? 本当に?」


「はい、デカいのがいます」


「いやいやいや! まてまて! 竜か!? 竜……ねぇ……」


「――勇者様?」


「あ、いや! 竜か! 竜となると少し話しが変わってくるぞ! なにしろ竜だからな!」


「はあ……?」


「うむ、素人のお主は知るまいが……竜を倒すには特別な武器が必要となるのじゃ! うむ! そうじゃそうじゃった」


「特別な武器ですか?」


「うむ! 退治してやりたいのは、やまやまなんだが……いかんせん、ワシの手持ちの武器では役に立たぬ! いや、残念!! 武器さえあれば!」


「――ダイジョウブです!」


「む? 何がダイジョウブなんじゃ?」


「――おい! 持ってきなさい!」


「――村長? 若い衆が大切に持ってきたが……それは何だね?」


「村に代々伝わる『竜殺しの剣』です」


「えっ!! そんなものあるの!? ウソ~!?」


「有ります。これがそうです……どうぞ」


「ほ、ほ、ほ、ほほう……この剣が『竜殺し』とな!? して、どのような離れ業が有るのかな? この剣には!?」


「はなれわざ?」


「ほれ、あれだ……時間を止めるとか……? 一撃で竜の急所を射抜く光の矢を飛ばすとか……?」


「そんな魔法は有りませんよ? ファンタジーじゃ有るまいし」


「ファンタジーの武器じゃないの!? そうなの? じゃあ何で『竜殺し』なの?」


「その剣でなら竜の硬い鱗も貫けます!」


「え……えっと……それって、つまり……普通に闘えって……事かな?」


「はい! 勇者様の技と力量で倒して頂ければ……」


「あ! ああっ! 惜しいっ!! いや、実に惜しかったっ!!」


「はい?」


「あのね……実はワシ……二刀流なのよ、うん」


「おおっ!! 二刀流! カッコイイですね!!」


「うん、カッコイイの……ワシ。でね……本気出すにはね、同じ剣がもう一本必要なのよ……二刀流だから」


「ああ、二刀流ですもんね」


「うむ……ワシとて退治してやりたい気持ちに、ウソ偽りないが……いかんせん、真の実力を出せぬとあらば……」


「ダイジョウブです」


「え? またダイジョウブなの!?」


「もう一本有ります……」


「ええぇっ!! まさかぁ……? あ、持ってきたね……若い衆、大切そうに……」


「――どうぞ」


「……ああ……ホントに有るんだね、こんなお宝が二本も……この村って、ひょっとして、すごい村なの?」


「その『竜殺し』を使い、勇者様の本気モードの二刀流で、恐ろしき竜を……」


「あ、そうね……本気モードの二刀流ね……そうね……あ、でもね……やめといた方がいいかもよ?」


「は? 何故でしょう?」


「――あのね……ワシの本気モードって、二本同時に剣を振るのよ……でね、右手が竜を退治したとするじゃない? 左で振った剣がね、このへん破壊しちゃうと思うんだ……うん……困るよね?」


「破壊ですか!?」


「そう! 地形、変わっちゃうよ? この村も、無くなっちゃうかもよ!? 困るよね! ね!」


「それは……困りますね……」


「でしょ! でしょ!?」


「ダイジョウブです!」


「またっ!? 何がダイジョウブなの!? 二本振るのよ!? ワシ!」


がいます!」




―― おあとがよろしいようで。

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