99【夜光虫if】

レント

第1話

「ここに、あなた達を一つに戻す機械があります」



 そう、突然現れた科学者は言った。

潘岳は首をかしげる。言っている意味がなにも分からなかった。



「ひとつに戻す?」

「ええ、双子とはそもそも、分裂してしまった核の問題です」

「問題、なんて言葉を勝手に使うなよ」



 どこかの病室のような部屋の中、窓から差し込む光は柔らかく、春の陽気なのかポカポカとしていた。

なぜここにいるのか、目の前の科学者はなんなのか、そういう疑問はうっすらと感じているのに、ついに言葉にはならなかった。



「それって、どちらを本体にするか選べるんですか?」



 潘岳はギョッとして、隣の椅子に腰かける潘雲の方を見た。



「あまりそういう使い方をする機械ではありませんが、比率をいじることは出来ますよ。99%までなら」

「1%は残るんですね」

「消し去ることは、殺してしまうようなものですから」



 潘岳は全く別世界の話を聞いているような不安を感じた。

しかも、弟はその全てを理解して、目の前の科学者と話をしている。



「99%も変わらない気がしますがね」

「まぁ、そこはご愛嬌、ということで」

「待てよ、なんの話をしてるんだ」



 潘岳はやっと二人の間に分けいるように声をだす。

けれど、潘雲の表情は特に変わらず、そのまま潘岳の方を見た。



「双子ってそういうものじゃない」



 なにを言ってるんだよ。

そう反論しようとしたのに、急に喉がしまって、声が上手く出ない。

困惑して潘雲と科学者を見たが、二人は勝手に話を進めていた。



「じゃあ、99%でもいいんで。それでお願いします」

「そうですか。じゃあ、早速支度にかかりましょう」



 科学者はごちゃごちゃとした機械のスイッチやらコードやらを繋いだり、バタバタと一人で慌ただしく、しかし正確に動き出す。

そのモニターのひとつに「99」という数字を見た。

なにかとてつもなく不吉で、取り返しのつかないものを見ている気がして、潘岳は潘雲にやめさせるよう、声をかけようとした。

けれど変わらず声は出ない。体の動きも鈍くて、隣に座るはずの潘雲に手が届かなかった。


 やめてくれ。そんなの俺が望むはずないじゃないか。

二人でいるから俺たちは。



「準備が出来ました。手を繋いで頂けますか?」



 科学者はなにかの指示を出した。それに従って、潘雲は潘岳の手を取った。

届かなかったはずの手を、潘雲は簡単に握り、潘岳はその冷たさに怯えた。

やめてくれと怒鳴りたいのに、涙のひとつすら流れない。



「じゃあね」



 潘雲は笑った。当たり前のことを、当たり前に受け入れるような、そんな笑顔だった。

わけも分からないまま潘岳は、この世界から切り離されるように、なにかの衝撃に突き飛ばされて、少しだけ闇の中を漂った。

何が起きてるんだよ。なんでだよ。

そんなことを思いながら、数秒間だけ、彼は完全な孤独の中にいた。


 ふと、ぼんやりとまぶたの外に光を感じる。

彼はゆっくりと、目を開く。

だんだんと視界や聴覚が安定してきて、身の回りの状況に彼は気が付き始めた。


 病院のベッドの上で、様々な機械や点滴を繋がれて、口には酸素マスクを被せて、自分は目を覚ました。

その前のことを思い出そうと、彼は回想し始める。

もう数日も前の事だった。

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