二人の誕生日(夜光虫シリーズ)
レント
第1話
ジャンボは嘘というのがとにかく下手だった。
特にチョコとバニラを前にすると目が泳ぎ、隠し事をしてると一瞬でバレてしまう。
「それでなんで役者できるんだよ」と二人にからかわれるが、本人いわく、仕事とプライベートは全く違うらしい。
相手がチョコとバニラに限らず、隣人にも隣人の娘さんにも街の人にも、なにかを誤魔化すということさえなかなか器用にできなかった。
だから、サプライズなんてものはもってのほかだ。
ジャンボは職場でも「子どもの誕生日なので一月三十日だけは何が起きても休みます」と公言していた。
もともと二人のために始めた仕事だ。
彼らとの予定を後回しにしてまで、働く理由などひとつもなかった。
とはいえ、その親バカさに周囲の人たちは呆れたように笑う。
「息子さん、たしかお二人でしたね。お兄ちゃんと弟くんと、どちらの誕生日なんですか?」
「二人ともですよ。アイツら同い年なんで」
撮影所の人たちは首を傾げ、不思議そうに聞き返す。
「俺が無理に拾ってきたなんて聞いてますけど、お誕生日、たまたま一緒だったんですか?」
「いえ、去年の俺の誕生日の時に、話し合って決めたんです。それまでは二人とも誕生日がなかったから」
そうですか、と撮影所のスタッフはなにかに思いを馳せるように微笑む。
こんな話題は他所ではそうそう受け入れられない。
けれど、ジャンボが二言目には息子たちの話をするので、みんな慣れっこになってしまったのだ。
環境に恵まれたとも言えるかもしれない。
誕生日前日のジャンボはいつになく浮き足立ち、ただ明日を楽しみに笑っていた。
「せっかくだから、息子さんたちにこれもあげてよ」
「これ、ちょっと古くなっちゃったけど、おもちゃにはいいだろ?」
そんな好意がどんどんジャンボの元に集まった。
ジャンボは少しだけ涙が滲んで、嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます。きっと、絶対、アイツら喜びます」
ジャンボという人を説明できる人はなかなかいない。
スレてないとか、優しいとか、親バカだとか好印象を持たれることは多いが、それ以外の部分は比較でより際立つ。
たまに見える全てに興味を失った冷たさは、もうすっかりなりを潜めていた。
撮影所の人たちは、子供と暮らし始めたことで、心が緩んだのだろうとか、そんな噂をして、変化を微笑ましく見守っていた。
彼自身はどうだったのだろう。
気がついているかいないかの境界線を歩き、自分にはこれしか出来ないと歩き続けていたようだ。
幸せの形は分からないままなのに、その温かさはもう充分なほど彼の内にあった。
去年の自分の誕生日を思い出す。
あんなに嬉しかった誕生日はきっと今までなかった。
そう笑った、のだが、ほんの一瞬だけ過去の光景が切りつけるように思い出と混ざる。
家族がいた。両親がいた。俺の誕生日を祝ったことがある。
ジャンボは首を横に振ってため息を着く。
今更どうだっていい。こんなにも幸せに囲まれて、それ以上なんて望めばバチが当たる。
望む気だってないんだ。そうジャンボは過去の記憶を振り切った。
両手にいっぱいの二人へのプレゼントを抱えて、トロリーバスを待っていた。
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