サクリファイスショーの開演
ユラカモマ
サクリファイスショーの開演
「正義のヒーローになりましょう!」
ぶらぶらデパートの駄菓子売場を歩いていたら突然うさぎの着ぐるみに話しかけられた。声のかわいさでかわいい見た目を予想して振り向いた俺はその潰れた大福みたいな見た目にちょっとたじろいだ。黒いまん丸の目が眼前に迫って圧をかける。
(何、ヒーローショウとかのバイトの話? そんなに人手が足りないの?)
「お兄さん暇ですよね、デートの約束してたのに振られて、でも慰めてくれる友達もいないからとりあえずぶらぶらしてるって感じがする!」
「お、俺だって友達ぐらいいるし。今日はちょっと都合が合わなかっただけで…」
「もしかしてお友達に彼女さん取られちゃいました? かわいそう。
勢いよく怪しいセリフを
「正義のヒーローになればモテるかも知れませんよ!」
「んなわけ…」
「ありがとうございます! やってくださるんですね!」
「………」
気づくと俺は着ぐるみの差し出した赤色(原色)のスーツに手を伸ばしていた。俺の体は俺が思うより欲望に忠実だったらしい。
「じゃあ早速トイレで着替えてきてください!」
「えっ、更衣室とか…」
「正義のヒーローが更衣室から出てきちゃダメでしょ!」
トイレから出てくるのもどうよ、と思ったけど誰かに見られないよううさぎが見張っとくから大丈夫らしい。じゃあ更衣室でもいいじゃん?? 雇い主には逆らえないから従うけどさ。
「さ、じゃ早速お願いします。そのコーンと棒で囲ってあるとこ入ったら敵が来ますんで迎え打ってください。あ、くれぐれもコーンや囲いには触らないように。出てきちゃいますからね!」
6つのコーンで六角形の形を作っているそこはさほど人のいない平日のデパートの中でもひときわぽっかりと浮かんで見えた。6つのコーンはすべて棒で繋がれており入るには棒を越えなければいけないからかも知れない。俺は促され棒を越える。
「え…うわっ!」
一歩踏み越えるとゲームのように突然黒い影が現れた。自分と同じくらいの大きさだが体の輪郭がもやもや虫のように
「パンチで倒せますよー! がんばって!」
言われるまま手をグーにして前につきだすと枕を殴ったような感覚があって黒い影がふわっと消える。
「まだまだ来ますよー!」
一体倒して終わりじゃないらしい。ゆらゆら影が伸びて人の大きさになる。またパンチをすると今度は布団のような感触がした。
パンチ ゆら パンチ ゆら パンチ ゆら パンチ ゆら パンチ ゆら ゆら ゆら ゆら ゆら…
「終わりでーす!」
声がかかってはっとする。目の前の影はもう伸びて来ない。握りしめていた手を解いて囲っていた棒を越えるとうさぎがすっとタオルとバインダーを渡してきた。
「じゃあお兄さんまた明日もお願いします。今日と同じ時間で大丈夫ですか?」
「え、単発じゃないの?」
「はい、デパートは人が多いからどうしても溜まっちゃうんですよね」
「でもコンビニのバイトもあるし、かけもちはしんどいかな…」
「 大丈夫、両立できますよ! 時間の融通はきく仕事なので都合のいい時間だけで結構です! はい、ここにサインを!」
「えーでも…」
「モテますよ!」
「でもそんなこと言っても疲れるし…」
「ありがとうございます!」
また気づけば手が勝手にサインを書いていた。もうこれ操られてんじゃね? ってぐらい体がちょろい。首を傾げる俺の後ろで着ぐるみのうさぎが笑う。
「じゃあ明日からお願いします、
サクリファイスショーの開演 ユラカモマ @yura8812
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