バオズやハロウィン・ぽっぽや番外地

レント

第1話

 今日は休みなのに……いや、休みだからこそか。

そんなことをぼやきながら潘岳はどかっとガラスのカップを置いた。

飲み屋はわりと遅い時間だがワイワイと賑やかだ。

そんな中、仕事帰りの潘岳は人相も機嫌も悪く、酒をあおっていた。

その向かいには潘雲が座り、珍しく似たような顔で同じ瓶からグラスに注いで酒を飲んでいる。



「どうしたの〜、荒れてるねぇ。岳ちゃん……雲ちゃんまで」



 店を切り盛りするおかみさんからすれば、二人はそれなりにマナーのいい常連客だった。

しかし、今日は見るからに怖い顔をしている。



「こんな時間までさぁ、俺たちなにしてたと思う?」

「なに、仕事でやな事でもあったの?」

「仕事…仕事かねぇ!?あんなのがよぉ!」



 潘岳はやけくそにまた酒を飲んだ。

かなりお疲れだね〜なんて言いながら、おかみさんは潘雲の方も見る。



「兄貴はいつものことだけど、雲ちゃんまでどうしたの」

「……同じですよ。同じ仕事……仕事ですかねぇ!?」



 ほとんどそっくりヤケになり、二人はどんどん酒を飲む。

あらまぁなんて言いつつ、そんな日もあるよねと、おかみさんはサービスのツマミを運んだ。



「元気だしてよ。今日はなんか祭りらしいよ?」

「祭りぃ?」

「ほら、二人とも向こうの常連でもあるでしょ。変なバオズやの」

「変なって……ああ」



 二人はここ数日のバオズやでのやり取りを思い出していた。

ギラギラな装飾に囲まれた骸骨に、よく分からない西の祭りの話。

それと割引券。



「行こうと思ってたんだよなぁ……あー、もう閉まってるか」

「今日はまだ開けてるらしいよ。ほら、ウチに来てるお客さんもちらほらヤバいだろ?」



 二人は全く周りを見る余裕もなかったのだが、うながされて店内を見ると、血まみれの客が普通に酒を飲んでてギョッとする。



「お、おい、あれ」

「仮装だって。ビックリして聞きに行ったら店主さんが話してくれたよ。なんか申し訳なさそうにして、お土産も貰っちゃった」

「そういうとこだけ常識的なんだよなぁ……」

「兄貴、そういう言い方はさぁ……」

「いやぁ、怪しい店なのにねぇ。流れてきたお客のおかげでウチまで儲かっちゃって」



 ベロベロに酔った二人は、まだ割引券のことを考えていた。



「仮装……たってなぁ。なんもねぇや。怖けりゃなんでもいいんだっけ?」

「ウチの包丁貸そうか?」

「捕まっちゃうでしょ。やめてくださいよ」

「なんだ、真面目だねぇ。冗談だよ」



 そんなことを言いつつおかみさんは、他の注文のために歩いていく。

潘岳と潘雲は、ふと視線を合わせた。



「……怖けりゃねぇ……」

「なんでもいい、か……」



 こうして、最強最悪の悪ふざけが幕を開けたのだった。

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