第9話

「人に嫌がることをするんだよ」

「僕たちは小さい頃から『人が喜ぶことをしよう』って習ったよ」

「僕たちは『人様に迷惑をかけてはいけません』

 って習ったよ」

「『してはいけません』と『しましょう』と真反対だね。でも同じことのような気がする」

「迷惑をかけてはいけないと思うから話しかけないようにすることは多いね」

「そうなの?」

 

 

優希はこの会話でお金のない世界をイメージした。

 

 

「小さい頃から人の喜びをしようって言ったよね」

「うん」

「今思い出したんだけどね僕も小さい頃お父さんやお母さんのお手伝いをしたくてね、喜んでくれる笑顔を見るのが嬉しかったよ」

「僕たちもそれを大切にしようと習ったよ」

「やっぱりね。ご褒美はお金じゃないんだね」

「自分が役に立つと思ったらすっごく嬉しいね」

 

 

子どもたちが通う学校での助け合いの学びは社会に出てからも充分活かされる教育であった。

 

 

その晩は稔はたくさんお話して疲れて熟睡した。

翌日健司と妻の声で目が覚めた。

 

 

「大雪じゃないか。今日は山には行けないよ」

「また~?」

「これじゃあ世間も困るんじゃないか?」

「世間より我が家でしょう? 収入激減よ」

「・・・・・」

 

 

レストランの経営者の健司は唯一の収入源であるレストランにお客が来ないことが死活問題だった。

 

 

稔は目をこすりながら優希と二階から降りてきた。

「おはようございます」

稔は夫婦の困った顔を見ながら聞いてみた。

 

 

「どうしたんですか?」

「大雪が降ってるんだよ」

「何か困るんですか?」

「これじゃあレストランにお客が来ないよ」

「ゆっくり休めて良いじゃないですか」

「休んでいたんじゃお金にならないじゃないか」

「あ~。そうでしたね。すみません」

「稔君が誤ることじゃないけどね(笑)」



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