第九章 ケンカ

 「イヤだって言ってるだろ!」


 勇の声に一瞬教、室中が凍りついた。


 又、いつもの光景が繰り広げられると感じられていた教室の空気が、緊張に包まれていった。

 

 「な、何だよ。いつになく強気じゃん?」


 アツシが勇の迫力にたじろぎながらも、余裕のありそうな態度で言った。


 「エンピツぐらい、自分で買いに行けよ。

 俺は子分じゃないぞ」


 尚もハッキリ言う勇に、仲間の手前のあってアツシは胸ぐらをつかんですごんだ。


 「何だとー、ふざけるな。

 お前なんか弱虫じゃないか」


 つかみかかりながらも真っ黒に日焼けし、たくましくなった勇に少しビビッていた。


 勇は素早くアツシの手を振りほどくと、胸を突き飛ばした。


 あまり力を入れていないのに、アツシは呆気なく後ろに倒れ込んだ。

   

 「イッテー、何するんだ」


 勇は不思議だった。


 あんなに恐かったアツシだったのに、今、目の前にいるのはただの強がりを言う男の子だった。


 飛び込んできたアツシをつかまえると、振り回してやった。


 自分の力に驚いている。


 アツシの取り巻きが加勢してくる。


 一人対三人なのに全然負ける気がしなかった。

 

 突然始まった大ゲンカに、教室中が大騒ぎになった。


 みんなが勇の変身ぶりに驚いている。


 先生が入ってきて、四人は揃って廊下に立たされた。


 肩を落とす三人の隣で、勇だけが胸を張って立っていた。


 秋の気配を見せる日差しに、窓のサッシの影が少し長めに廊下に伸びている。


 少し深い色になった空に向かって、勇は心の中でつぶやいた。


 (やったよ、父さん・・・)


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