第五章 いじめっこ
勇が善造の家に来てから、十日余りが経った。
あれから毎日朝、早くから畑に出て、午後は釣りや山菜採りをした。
勇は見違えるほど、たくましくなっていた。
真っ黒に日に焼け、青白く細かった腕や足も心なしか太くなった。
毎日クタクタになるまで働き、遊ぶのだ。
しかも、自分自身でとった新鮮な野菜や魚は、この世のどんな料理よりもうまかった。
勇は、よく笑うようになった。
無口なじいちゃんに、その日見た事や感じた事を事細かくしゃべるのだった。
時々かかってくる母からの電話にも、興奮して話すようになっていた。
善造もこの孫を愛おしそうに、しわだらけの顔にうずくまる、大きな目をギョロつかせて見つめるのであった。
今日、じいちゃんは町に野菜をおろしにいって、いない。
勇はしかたなく一人で釣りでもしようと、川に出かけていった。
川に着いてみると、数人の同じ年頃の少年達が遊んでいた。
一瞬、その中のリーダー格の少年と目が合った。
勇はすぐ目を伏せ、立ち去ろうとすると少年の声がした。
「オイッ、お前。
善造じいちゃんのとこの子だろ。
一緒に遊ぼうか?」
人なつっこい笑顔に勇も笑いかけたが、反射的に違う言葉を発していた。
「いいよ・・・」
そして怒ったように歩いていった。
少年は呆気にとられ、勇の背中を見送っていたが、怒りが込み上げてきて仲間達に言った。
「何でー、アイツ・・・。
今度会ったら、いじめてやろうーぜ」
みんなも口々に声をあげ、勇の悪口を言っている。
勇も遠くの方で子供達の声をかすかに聞きながら、せつない思いで歩いていた。
(いつも、こうなんだ・・・。
どうしてだろう?
素直になれない・・・)
勇にとって、これは深刻な問題であった。
父を亡くしてから、母に甘やかされた訳でもないが、ワガママになってみんなに嫌われた。
そして本能的に臆病さを身に付け、心と裏腹にこんな態度をとってしまう。
最初、仲良くなりそうな子でも、大抵腹を立ててしまうのだ。
暗く重い気持ちを引き摺って、勇は家に戻った。
じいちゃんが帰っていて、トラックから肥料を下ろしている。
「もう、帰ったのか。
遊びにはいかんのか?」
「やめとく・・・」
つっけんどんに答えると、勇は暫く使わずにリュックに入れてあったTVゲームを取り出し、ピコピコやり始めた。
善造は何か言おうとしたがやめて、リヤカーに肥料を積むと畑へと歩いていった。
まだまだ夏は盛りで、前にもましてセミの声がこだましていた。
その日一日中、勇はTVゲームをして過ごした。
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