第三章 夕食

 パチパチと音をたてて、囲炉裏の火が燃えている。


 勇は不思議そうに揺れる火を見つめている。


 山の中にある善造の家は風通しがよく、ひんやりとした風が心地よく通っていた。


 囲炉裏の火には鍋がかけられ、川魚が串にさして焼かれている。


 「疲れたろう、勇。いっぱい、食え・・・」


 ほどよく焼けた魚を串ごと差し出されると、勇は手に取りフーフーと冷ましながら、かじりついた。


 火傷しそうな熱さと共に、香ばしい味が口中に広がっていく。


 こんなおいしい魚を食べたのは初めてであった。


 いや、以前にも父と共に来ていたのだが、随分小さい頃であった為、よく覚えていないのであった。


 この頃食欲がなかった勇がおいしそうに食べているのに安心したのか、静江は善造に向かって言った。


 「無理言ってすみません、お義父さん・・。

 私は明後日から仕事がありますので、

 明日帰りますが、勇がわがまま言ったら

 叱ってください」


 「あー、大丈夫だ」


 そう言うと善造は鍋から汁を器に盛り手渡した。


 静江は無口な中にも夫の優しさの面影を見たようで、優しく微笑むと汁をすすった。


 「おいしい・・・」


 善造は聞こえたかどうかわからぬふりで、ザブザブと食べている。


 虫の音が何種類いるのかわからぬ程、複雑に美しく鳴いていた。


 テレビもつけず、三人は静かに食事をしている。


 月が、明るい夜であった。


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