ハーフは二刀流?

@yayuS

第一話


 とあるアパートの一室。白を基調とした部屋にウッド調の家具が並んでいた。不規則な木目をしたテーブルの上に、赤身が残った『レアステーキ』と、餡がはみ出るほど中身が詰まった『たい焼き』が並んでいた。その脇には500mlの缶ビールが大きなボールの中で氷と共に眠っていた。

 テーブルを囲うのは二人の男。

 一人は体格のいいスポーツマン。

 もう一人は丸眼鏡を掛けたがり勉風の男だった。


 スポーツマンが手を叩いて言う。


「いやー、今日もこの日がやってきましたねぇ。今月もお疲れさまでした。乾杯!!」


 二人は『カシュッ』と同時に缶を開ける。

 一息に半分を飲み干した。


「ああ、本当だな。まさか、アラサーになってもこの関係が続くとは思わなかったよな。本当、懐かしいよ。月に一度、給料日は二人で好きなモノ買って一緒に食べようって約束してから五年以上立つもんな」


 しみじみと天上を見上げる。

 喉を潤した後はお腹を満たすだけだと、スポーツマンが、たい焼きに手を伸ばし頭から齧り付く。


「ま、幼稚園から数えれば二十年近い腐れ縁ですけどねぇ。これは腐っても鯛。いや、たい焼きだから腐らない~っつって」


「相変わらず酔うの早いなぁ、お前は……。酔うとくだらないダジャレ言うのも健在で、なによりだよ」


 スポーツマンのダジャレに苦笑しながらテレビを付ける丸眼鏡。すると、興奮した口調で叫ぶアナウンサーの声が部屋に響いた。


『日和選手、スノボとスキー。二種目同時金メダル。二刀流を見事に達成しました!』


 偶然、流れたチャンネルでは、冬季オリンピックが中継されており、日本の選手が金メダルを獲得した瞬間だったようだ。


「へぇ、日和選手凄いじゃん」


 丸眼鏡の男は、金メダルを獲得した選手の活躍に力を貰ったようだ。火照った身体を覚ますように、残っていた缶ビールを一気に飲み干す。


「いや~。めでたい時のビールは上手いねぇ。俺達も二刀流とは言わず、一つでもいいから何か結果を残したいね。そう思わない?」


「……」


 丸眼鏡の同意に返事をせず、ひたすら小難しい表情で腕を組むスポーツマン。

 真剣な表情に、丸眼鏡は思わず缶ビールを置いた。


「なに、どうしたの? そんな顔しちゃってさ」


「いや、ふと思ったんだけどさ、一人が二つをやることが最近、二刀流だって言われてるじゃん?」


「まあ、そうだね。それがどうした?」


「今、半分が人間で、半分が鬼の主人公が活躍してるアニメ……あったよね?」


「ああ。『半妖の刃』ね。子供から大人まで人気だよね。俺も映画見て泣いたもん。って、それと二刀流がどう関係あるのさ」


「いや、だからさ。主人公は『人間』で『妖怪』なんだよ? それって、つまり二刀流じゃない?」


 スポーツマンの言葉に眉を顰める。


「う~ん。それはどうだろう。どっちかって言うとハーフじゃない?」


「はい、頂きました!」


 ハーフという単語に勢いよく食いつくスポーツマン。探偵が犯人を示すが如く勢いよく指差した。


「なにがだよ」


「ハーフは半分って意味だぜ? でも似たような境遇で二刀流と呼ぶ場合もある。そうすると、言い方次第で四倍の差が生まれちゃうわけだ」


「いやいやいや。そんな状況ないって。今しがた、金メダルを取った日和選手だって、「スキーとスノボーのハーフです」なんて表現したら、おかしいだろ?」


「だから、それなら『半妖の刃』だって、『人間』と『妖怪』の二刀流ですって言って良くない?」


「そりゃ……言えばいいんじゃないか?」


「ふむ……」


 スポーツマンは顎に手を当て何かを考えると、ポツリと言葉を吐き出した。


「英語の話せないハーフタレントは?」


「なんだよ、急に……。そりゃ、ハーフなんだから、ハーフじゃない?」


「なら、二か国語を話せるハーフタレントは?」


「そりゃ、ハーフはハーフだろ。なんも変わらないよ」


「はい、頂きました!」


 再びスポーツマンは指を差す。

 丸眼鏡は差された指を払いのけた。


「だから、なにがだよ。てか、人を指差すな」


「ほら、同じ『ハーフ』でも差が生まれてるじゃん。二か国語話せるハーフタレントはちゃんと、二刀流ハーフタレントって言うべきじゃないか?」


「誰もそこまでは望んでないって……。ていうか、その場合はバイリンガルって言うだろ」


 呆れる丸眼鏡の話を無視して、スポーツマンは矢継ぎ早に言葉を並べていく。


「ピッチャーとバッターの両立は!?」


「そりゃ、二刀流だろ。この言葉の火付け役だろ?」


 丸眼鏡の回答に頷き次の問題を出す。


「宮本武蔵は!?」


「宮本武蔵はえっと……。確かどっかの島で有名な決闘した剣士だったけ? なら、普通に剣士じゃないか? ひょっとして、どっかの殿様だったりするの?」


 丸眼鏡は歴史には詳しくないのか自信なさげに答えた。

 宮本武蔵は剣士と何の二刀流なのだろうか?


「正解は、普通に二刀流でした。剣を二本使うからね」


「……くだらなっ」


 そこで丸眼鏡はようやく気付いた。スポーツマンは『二刀流クイズ』を出しているのだということに。呆れる丸眼鏡に追撃を出していく。


「じゃあ、一か国語しか話せない、ピッチャーとバッターをこなすハーフタレントは?」


「なんだよ、そりゃ、ややこしいな。えっと、結局のところ投打をこなすんだから、二刀流でいいんじゃないか?」


 丸眼鏡の答えにニヤリと笑う。


「ブッブー。正解はハーフの二刀流なので、正解は『一』となる。つまり、一刀流でしたー!」


「どんな計算だよ。そんな答えになるか!」


 手を叩いて笑うスポーツマンに怒号を飛ばす。一人で大いに笑ったスポーツマンはふと真顔になり、「最後の問題です」と出題した。


「僕は明日、彼女と結婚します。そうした場合、僕と君の関係はどうなるでしょうか?」


「はぁ……!? 結婚? 聞いてないぞ? それに質問の意味が……!」


 混乱する丸眼鏡に、迫る針の音を口で再現していく。


「チッチッチッチ」


 急かされた丸眼鏡が答える。


「えっと。別に結婚しようと、普通に友達のままだろ?」


「それをこれまでの答えに治すと……?」


「これまでの……。家庭と友情の二刀流……ってこと?」


 恐る恐る丸眼鏡は言った。

 テーブル越しに手を差し伸べるスポーツマン。丸眼鏡は変わらぬ友情に手を取った。


「正解は、妻を大事にするので、しばらく二人きりでは会いませんでした~!」


「二刀流じゃないのかよ!!」


 これまでの問題はなんだったのかと、丸眼鏡は手を放しテーブルを叩いた。



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