クラス替え

 終業式以来、約二週間振りに登校した陽翔はまず廊下の壁に張り出されたクラス名簿で自分の名前を探す。


 まず自分の名前を見つけると、次いで友人の大地や綾音、そして真澄の名前も見つけた。どうやら今年は三人共同じクラスのようだ。


「よう、陽翔。久しぶりだな」


「久しぶりって……たかが二週間だろ。大袈裟だな」


 気さくに声をかけてきた大地の方を振り返る。そこで陽翔は、一つの違和感を覚えた。


「おい大地、綾音はどうした? もしかして寝坊か?」


「いや、寝坊ではないな。そもそも今日から学校ってことを忘れてたらしい。俺が家まで迎えに行ったら、メチャクチャ驚いてたな」


「あいつはアホか……」


 想像の斜め上を行く頭の悪さに、軽い頭痛を覚える。


「まあギリギリ遅刻はしないから大丈夫だろ。それより、もう新しいクラスは確認したのか?」


「ああ、今年は俺もお前も綾音も真――黒川も一緒のクラスだな……って、何だよ、人の顔見ながらニヤニヤして」


「俺と綾音だけじゃなくて、黒川さんの名前も確認したのか?」


「……悪いかよ」


 半眼を向けるが、大地は飄々とした態度を崩さず頭を振った。


「いや、別に悪くはないな。綾音も黒川さんには大分懐いてるから、喜ぶだろうし。陽翔だって、黒川さんと同じクラスで嬉しいだろ?」


「……別に黒川がどこのクラスだろうと、俺には関係ないことだろ」


「相変わらず素直じゃないな。そんなんだと、黒川さんに愛想尽かされても知らないぞ?」


「うるせえ、余計なお世話だ」


 それだけ言って強引に話を打ち切り、大地に背を向けて新しいクラスの教室へと向かった。


 教室に着いてからしばらくすると、一部のクラスメイトたちから「おお!」と歓声が湧くのが聞こえた。振り向くとそこには、ある方向に視線を注ぐ数人の男子がいた。


 彼らの視線を追うと、その先には一人の女子生徒――真澄が立っていた。どうやら彼らは、真澄が現れたことで騒いでいたらしい。


「流石は黒川さん、相変わらずの人気ぶりだな。陽翔もそう思うだろ?」


「まあな」


 教室に足を踏み入れただけで男子たちが色めき立つような女子は、校内でも真澄くらいのもだろう。同時に一年間クラスが一緒というだけでよく騒げるものだと、今も興奮気味の男子たちには呆れてしてしまうが。


 真澄の人気者ぶりを感心しながら眺めていると、ふと彼女がこちらを振り向き視線が交わった。


 真澄は一瞬目を丸くしたが、それから僅かに口角を上げて微笑んでみせた。


「おい、今黒川さんが俺の方見て笑わなかったか?」


「バカ、今のは俺を見て笑ったんだよ」


 陽翔たちの背後で、男子たちが何やら不毛な言い争いをしていた。


「なあ陽翔、今間違いなくお前の方見てたよな?」


「……気のせいだろ」


「はっはっは、照れるな照れるな」


「…………」


 力強く肩を叩いてくる大地に上手く言い返す言葉が見つからず、担任教師が来るまでそっぽを向くしかなかった。


 ――余談ではあるが、この後綾音は新学年初日から盛大に遅刻して担任教師に叱られることになるのであった。

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