プレゼント選び
「陽翔お兄ちゃん、こんにちは!」
ここ最近習慣化した黒川家での食事。今日もいつも通り部屋にお邪魔すると、真那が陽翔のことを呼びながら駆け寄ってきた。普段から陽翔が来ると嬉々として駆け寄ってくるが、今日はいつにも増して元気いっぱいの様子だ。
「何だ真那、随分と機嫌がいいな。何かいいことでもあったのか?」
「うん!」
訊ねてみれば、元気いっぱいの答えが返ってきた。
「あのね、私今度七歳になるんだ!」
「七歳に……それってつまり、誕生日ってことか。いつだ?」
「来週の金曜日!」
今日が木曜日なので、そんなに先の話ではない。
「それでね、来週の金曜日の夜はお誕生日パーティーにするから陽翔お兄ちゃんにも来てほしいんだ」
「俺も来てもいいのか? 友達とか呼んだりするんじゃ……」
「ううん。友達とはまた別でするから、パーティーは私とお姉ちゃんと陽翔お兄ちゃんの三人だけだよ。パーティーはお姉ちゃんが凄く美味しいご飯を作ってくれるから、陽翔お兄ちゃんも来てよ」
チラリと台所で料理中の真澄を見る。真那はこう言ってくれているが、保護者である真澄の意見も伺っておくべきだ。家族水入らずを望んでいる可能性だってある。
台所からでも話は聞こえていたようで、真澄は手を止めると陽翔を見た。
「パーティーの主役は真那ですから、真那がいいというのなら私は構いません。もちろん戸倉君に何か予定などがあるのでしたら、断ってしまってもいいですよ」
どうやら真澄も陽翔の参加に異論はないようだ。それなら、真那の誘いを無下にすることもない。
それに食い意地を張ってるようで申し訳ないが、真那の言う『凄く美味しいご飯』とやらも気になる。真澄の手料理を食べ慣れているはずの真那がそこまで言うのだから、相当のものに違いない。
陽翔が誕生日パーティーの誘いに応じると、真那は満面の笑みを浮かべた。
真那に誕生日パーティーに誘われてから二日後の土曜日。普段休日は家で何もせずダラダラしている陽翔だが、この日は珍しく外出していた。現在は最寄りの駅前で待ち合わせ中だ。
昼すぎということもあって、駅前は人でごった返している。これでは待ち合わせの相手と合流することすら苦労しそうだ。
「――お待たせしました、戸倉君」
喧噪に包まれた駅前にも関わらず、鈴の音のような心地いい声が耳に届いた。振り返るとそこには、待ち人である真澄が立っていた。
「いや、大して待ってないから大丈夫だ」
男女の待ち合わせ時お決まりの言葉で答える。するとなぜか、真澄は目を丸くしていた。
「あの、戸倉君……ですよね?」
「当たり前だろ。それ以外の誰に見えるんだよ?」
「それはそうなんですけど、いつもと違って見えて……」
「あー……今日は外に出るからな。ちょっとだけ格好も意識してみたんだ。ほら、学校の奴らに一緒にいるところを見られたら、面倒だろ?」
「それは……そうですね」
整った容姿故に注目される機会が多いからか、真澄はあっさりと納得した。
とはいえ、陽翔がイジったのは髪型くらいのものだ。ワックスを使って髪を固めた程度だが、慣れていないので今の形にするまでに何度か失敗もした。
今日は真澄と二人で外出なので、彼女に恥をかかせないためにも隣に立っても恥ずかしくない程度の外見にしておきたかった。学校関係者に見られても問題にならないよう、変装の意味も兼ねている。
余談だが、同じマンションであるにも関わらずわざわざ駅で待ち合わせしたのも、学校関係者を意識してのことだ。
「……もしかして、どこか変だったりするか?」
「いえ、そんなことは……むしろその、カ――」
「カ?」
「……何でもありません」
何か言いかけた真澄だったが、結局最後まで言い切ることなく押し黙ってしまった。言葉の続きが気になりはしたが、無理に聞き出すほどではないので追及はしなかった。
「今日はわざわざ付き合ってもらって悪いな、黒川」
「いえ、私の方こそ、真那のために気を遣わせてしまって申し訳ないです」
「気にするな。せっかくの誕生日なんだ、プレゼントくらいないと真那だって寂しいだろ」
学校一の美少女と休日に外出。一見するとデートにも見えるが、今日二人が集まった目的は真那の誕生日プレゼント購入だ。決して浮ついた目的ではない。
(そもそも俺と黒川じゃ、全く釣り合わないしな)
一昨日真那から誕生日のことを聞かされた陽翔は、真那にあげる誕生日プレゼントのことで頭を悩ませた。だが真那がまだ幼い子供ということもあり、何をあげるのが正解か分からない。
そこで真那のことをよく知る者――つまり姉である真澄に白羽の矢が立った。真澄なら真那の好みも把握しているはずだ。これ以上の適任はいない。
真澄も真那のためならばと、陽翔の誘いに快諾してくれた。
「そういえば、真那はどうしてるんだ? もしかして、一人で留守番か?」
「いえ、今日は友達の家で遊んでいますよ。あの子を家に一人で置いておくわけにはいきませんから」
「なら良かった」
どうやらいらぬ心配だったみたいだ。よくよく考えてみれば、真澄が大事な妹を一人で留守番なんてさせるわけもない。
「じゃあ、無事合流できたことだし行くか」
「はい」
二人は一緒に駅内へと歩を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます