第3話 再会


 僕の両親が離婚した。


 中学三年生の時に今までにないくらいの大喧嘩をしていた。お母さんは我慢の限界だったらしい、裕福な生活をさせてもらっていたものの、お父さんは家に関心を一切持たなかった。


 もちろん僕も遊んでもらった記憶は殆どない。そんな時お父さんの浮気が発覚したらしい、お母さんの中で何かが切れたって言ってた。良かったのか悪かったのか、離婚してあの大きな家を出て、お母さんと二人でアパート暮らしを始めてからは、進学の事も口うるさく言われなくなった。


 そのお陰で自分の行きたかった高校を受験する事が出来た。僕は無事合格して、この春から高校生になった。


 僕の毎日は朝五時に起きて朝練に行き、夜は九時を過ぎて帰る事もしばしばだ。部活はもちろんサッカー部だ。今まで勉強ばかりしていた為、楽しくて仕方なかった。


 帰るのが遅くなっても、家にお母さんは居ない、朝から晩まで働いているから。僕は家にある食材で適当にご飯を作り食べる。お母さんといるよりは息が詰まらなくて楽だと思っていた。


 学校生活にも満足していた、しかし未だに時々思い出す。


 この生活にゆいちゃんが居ればもっと楽しいのに、と。


 九月上旬、僕はサッカー部のみんなと文化祭の準備をしていた。何故かサッカー部が出し物でダンスをする事になっていた。


「部活で疲れてんのにダンスの練習までマジ死ぬわー」

 同じ一年が愚痴っていた。


「でも、意外と楽しいと僕は思うよ」


「お前はなんでも楽しそうにするよな!」


 確かにそうだ、小さい頃から自分のしたい事は我慢して親の言う通りにしてきた反動だろう。今は何をしていても楽しめた。自転車を漕いで通う事でさえ楽しかった。


 文化祭当日は部活の練習もなく、一日中遊べるとワクワクしていた。


「かずき!そろそろ衣装着ようぜ!」


「うん!」


 僕は少し恥ずかしかったが舞台に上がると、そんな事も忘れて必死に踊った。


 沢山の拍手をもらい、息も切れて額からは汗も滲んでいたが、達成感でいっぱいだった。


 僕は舞台の上から観客席を見渡した。本当、何気なく見渡したつもりだったが、その中の一人に目がいった。


 まるでそこにスポットライトが当たっているかのように、輝いて見えた。その瞬間、僕の中の思い出が蘇った。


 ゆいちゃんだ!!


 幕が閉まると、僕は急いでゆいちゃんの元に走った。しかし、人が多すぎて見つからない。その後も学校中を探したが、なかなか見つからない。人が多すぎるな、でも絶対あれはゆいちゃんだ。僕は諦めずに探した。

  

 しばらく探していると門の方に歩いて行っている女子校生二人組を見つけた、後ろ姿でそれがゆいちゃんだと思った。僕は走りながら叫んだ。


「ゆいちゃん!!」


 その二人組がこちらを振り返る。

 近づくにつれ、それが確信に変わった。


「私の事知ってるの?」


 確かにゆいちゃんだが僕の事を覚えていないようだった。


「僕だよ、覚えてない?」


「ごめん、分からないや」

 困った顔をしているゆいちゃんに僕は勇気を出して言った。


「昔、小学校二年生の時、よく公園で遊んでたかずきだよ」


 ゆいちゃんはさすがに思い出したようで、笑顔になった。


「あぁ!かずきくんだ!」


「よかった、思い出してくれて」


「すごく変わったから分からなかったよ」


 それもそのはず、僕は中学に上がった頃からぐんぐんと背が伸びた。相変わらず体は細くひょろひょろしているが、今は部活で鍛えている為筋肉もしっかりある。


「ゆいちゃんは、変わらないね」


 そう、変わらず可愛い。


「こんな所で会うとはね」


「僕もビックリだよ」


「あのー」

 ゆいちゃんと一緒に来ていたのだろう、隣の子が申し訳なさそうに言った。


「あっごめんね、うちら急用が出来て、帰るとこだったの」


「そうなんだ」

 せっかく会えたのに、そう思っていると、


「よかったら、LINE交換しない?」


 ゆいちゃんから言ってくれたのだ。


「もちろん!」


 LINEを交換すると、二人は帰って行った。


 僕は本気で運命だと思った。だって初恋の人とこんな所で再会出来るのはドラマか映画の中の話だけだと思っていたからだ。


 その後の事はあまり、覚えていない。浮かれていたから。LINEを交換しただけで、僕は彼氏にでもなったような気分だった。

 

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