第2話 友達

 

 ある日僕のお母さんと、クラスメイトのお母さん達が話をしていて、僕の誕生日にみんなを誘って誕生日会を開く事になった。


 正直学校にいる時は仕方なくというか、自然に話ぐらいはしても放課後遊ぶほど仲がいい友達はいなかったが、お母さんが誘ってしまったので僕は少し面倒くさいなあと思いながらも、そうだ!あの二人を誘ったら楽しいんじゃないかと思いついた。


 そして、僕はいつものように公園に走った。公園にはいつものようにゆいちゃんとたいちくんがいた。


「ねぇ、ちょっといい?」


 僕が話しかけるとゆいちゃんは振り向いた。


「なに?」


「今度僕の家で誕生日会するんだけど、二人も来てよ!」


「誕生日会?行きたい!」


 ゆいちゃんは目をキラキラさせて言ったがたいちくんは違った。


「俺はパスー。だるいしー」


「あんたは強制だから!」


 面倒臭そうなたいちくんをよそにゆいちゃんはワクワクしているようだった。


「二人共来てくれるんだね!ありがとう!」


 僕は日時を伝えて帰った。

 ゆいちゃんが来てくれるなんて、なんて嬉しいんだろう。僕は気付けばゆいちゃんの事を好きになっていた。


 ゆいちゃんは大体いつも同じ服で、とても綺麗とは言えないが、僕は可愛らしいファッションだと思っていた。何より、笑った顔が好きだった。


 たいちくんはいつも鼻水を垂らしていて、正直、服もいつも汚らしいし、最初は苦手だったけど、ゆいちゃんとセットだと考えれば気にならなかった。


 誕生日当日は朝から落ち着かなかった。


「かずき、そろそろお友達が来る頃だから、大人しくしていなさい」


「うん」


 約束の時間になると、クラスの子と、そのお母さん達がぞろぞろ家に入ってきた。みんなワンピースや蝶ネクタイをつけておしゃれをしていた。全員で八人ほどが入ってきたが、それでもスペースには余裕があるくらい、うちのリビングは広かった。


 花を持ってきてくれた子もいたし、最新のゲームソフトをくれた子もいた、中には僕には理解できないような変な、でも高そうな額に入った絵を持ってきてくれた子もいた。


「ありがとうございます」


 僕は一人一人に頭を下げながらお礼を言った。


「かずきくんは礼儀正しい、いい子ですね」

 誰かのお母さんが言った。


「そんな事ないですよ」

 お母さんは手で口元を隠しながらオホホというような感じで笑っていた。 


 早く二人来ないかなー。そんな事を考えながら僕は窓の外をチラチラ見ていた。


 ピンポーンというチャイムの音が聞こえ、お母さんが、誰かしら?と言ったので僕はお母さんより先に玄関に走った。


「いらっしゃい!」

 そう言いながら玄関を開けると、二人がいつものファッションで何か袋のようなものを持って立っていた。


「ほんとに、かずきくんちだった」


「お前んち金持ちなの?」


「こら!下品な事聞くな!」

 ゆいちゃんがたいちくんの頭をバシンと叩いた。


 僕はいつもの二人の姿に、さっきまで気が張っていたのが解けたようだった。


「さあ、入って!」


 僕は二人を家の中に招き入れた。


「おじゃまします」


 ゆいちゃんは少し緊張しているように見えたが、たいちくんは知らん顔でズケズケ上がってきた。三人でリビングに進むと、大人達は少し驚いた顔で僕達の事を見てきた。


「かずき、そちらは誰?」


 お母さんがキョトンとした顔で言った。


「僕の友達だよ、誘ってたんだ!」


「あっ、こんにちは」

 ゆいちゃんが礼儀正しく挨拶をした。


「そう‥‥こんにちは」

 お母さんは何故だか笑わなかった。


「これ、二人で作ったんだ」

 ゆいちゃんが持っていた袋をくれた。


「これなに?」


「クッキーだよ!」


「クッキー僕大好き!ありがとう!」


 僕はすごく嬉しかった、大好きなゆいちゃんが大好きなクッキーを、それも手作りしてくれたなんて。


 でも周りの目は冷たかった。


「かずきくんそんな汚いもの食べるのー?」

 クラスメイトがからかうように言った。


「えっ‥‥汚くないよ」

 僕は驚いた。


「この子の服汚ーい泥ついてるし!」

 他の子も便乗して言った。


「泥じゃねーよ!クッキーの粉がついたんだよ!」

 たいちくんが怒っている。


「‥‥みんな、なに言ってるの?」


 僕は心臓がズキっとした。


「こんな汚い子が作ったもの食べたらかずきくんお腹壊しちゃうよ!」


 僕はみんながなんでこんな酷い事を言うのか分からなかったが、今思えば、僕の方が無神経だったんだと思う。


「‥‥帰るよ」

 ゆいちゃんがたいちくんの手を引っ張りそそくさと家を出て行く。


「待ってよ!」


 二人を追いかけようと靴を履いているとお母さんが寄ってきて言った。


「やめなさい」


「なんでお母さんはみんなが酷い事言うのに何も言ってくれないの?」


「あんな子達と今まで遊んでいたの」


「そうだよ」


「もう遊ぶのはやめなさい、あなたの将来が心配だわ。さあ靴を脱いで、お友達が待ってるわ」


「友達‥‥」


 僕はそれ以上お母さんに言い返す事は出来なかった。


 窓の外にとぼとぼと歩く二人を見た時は、子供ながらに胸が苦しくなった。

 その頃からだろう、お母さんに嫌悪感を抱くようになったのは。


 もちろん二度とその公園に行く事はなかった、というか行けなかったんだと思う。






 

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