ハルのメモ帳
ハル
まつりのあと 10話の推敲前Ver
※本当に推敲前なので、誤字脱字とかも多分らありますが、笑って見てください
僕の職場では、毎週末夕方五時から全体の進捗会議をしている。
そこで僕の隣の席の相沢さんがプロジェクタにPCの画面を表示して、珍しくまじめな顔をして報告をしていた。
「えーと……、スケジュールとしては今の作業が年度末までなんですけど、年度明けで他チームとの連携が入ってくるので、遅れられないんですよね。で、ここの部分ですけど他からの伝え漏れがあったようで――」
進捗会議の総数は十名。僕の作業しているチームに加えて、ヘルプをお願いしている冬島さんに同席してもらっている。
年配の上長が険しい顔をして相沢さんの報告を聞き、いつまでにどう対応していくかを検討している。
「その資料はこの前自分の方で作って冬島さんに送っていて進めてもらっているんですが、ちょっと遅れ気味なので残業しつつ対応するしかないのが現状です」
相沢さんが僕と冬島さんに目配せをして、申し訳なさそうに言う。
件の作業は別に難しくないんだけど、単純作業で量が多い。そこで冬島さんに先に取り掛かってもらっているのだが、ほかから突然手伝いに参加させられていることもあって、進捗が芳しくない。
「利田さんの作業をちょっと調整して冬島さんに合流してもらって、私を含めてフォローする予定です。自分からは以上です」
上長は数秒沈黙した後、はい、と一つ頷いてプロジェクタに映した画面から目を離したところで相沢さんは報告を終えた。
それから別の人の報告も終えて次回開催日の確認をし解散。
会議室から居室への道すがら、僕、相沢さん、冬島さんの順で並んで今後について確認をする。
「会議の前にも言ってましたけど、利田さんの作業を俺が引き取るんで冬島さんの方取り掛かっちゃってください」
「了解っす」相沢さんの指示に頷く。
「利田さんすみません、ご迷惑おかけして……」
「いやいや、冬島さんのせいじゃ……」
冬島さんがどこの人なのかも僕は詳しく知らないが、聞くところによると「僕らの周りの人」ではないらしい。
まぁ、大人の事情ってやつだろう。深くつっこまないでおく。
「冬島さんは貧乏くじ引かされただけなんで、謝る必要ないですよ」
認証機付きの扉をくぐり、自席に戻ってくる。
「そんなわけなんで、向こう二週間くらい残業増えちゃいますけどよろしく」
苦々しい雰囲気を滲ませる相沢さんの言葉に、僕らはもう一度頷いた。
――その日から毎晩九時上がりの日が続き、予定の二週間を越えた。
当初は順調に消化出来ていたものが、他部署からの追加依頼が発生したり、冬島さんが勘違いして進めちゃってた分の手戻りが発生したり、その他致命的ではないにしろ小さなミスが重なってずるずる長引いていて落ち着く気配がない。
「お先でーす……」
PCの電源を落としたときにはすでに九時半を回っている。
続く残業でヘロヘロになった僕は、ほんのりと酒臭い空いている地下鉄に乗り込んだ。
正面左の座席に腰を下ろし、手に持っていた飲みかけのペットボトルを煽って後ろの足の間に挟んだところで強烈な眠気に襲われてしまった。
僕はシャツの胸ポケットからスマホを抜いて時間を確認し、バイブだけのアラームをセットして目を閉じる。
この路線はもう二十五分ほどはこのまま乗っているから、大丈夫なはずだ。
頭の重たさに抗えず、僕は俯くようにしてうつらうつらと浅い眠りに落ちた。
「――……、――……!?」
頭上から降ってくる剣呑な雰囲気に、少しずつ意識が戻ってくる。
半ば無理矢理に目を開けて、ぼんやりとしている頭を上げた。
「だから、『察して』くれたら、嬉しいんだけどなぁ~。ああいう場では男の人が、女の子に感謝して奢ってくれるところでしょ? 他の人みんなそうしてるよ?」
「そうなんだ。ごめん」
なんだか感じ悪いなぁ……。僕は相手の顔を見ないように気をつけながら、詩穂なら仮に奢って欲しくても違う言い方をするだろうと、つい心の中で呟いてしまう。
……感謝しろとは言うかもだけど、だいぶわざとらしく、かつストレートに『奢ってほしいなぁ』って言うはずだ。
……うん、負ける未来しか見えない。口元がにやける。
「せっかく付き合ってるのに、そういうのなんだか寂しいな~、なんて」
女性が男性に腕を組み、僅かに身を寄せる。
「こ、今度から……、気をつけるよ」
はい女性の勝ちー。
僕は社内のアナウンスもあり特に見る必要もなかったが、なんとなく社内の電光掲示板を見るために視線を上げる。
「「あ」」
そこから戻す際に、ちらと相手の男性を見て不意に目が合う。
「あの時の……」
目の前の坊主頭、高橋くんが言う。
「どうも……。偶然ですね」
「そうですね……」
僕と高橋くんだけなら、きっとそこで会話が終わっていただろう。けれど運悪く居合わせたあの華やかな雰囲気の女の子が間に入ってくる。
「あれれ? なんとなく見覚えがあるんですけど、どこかでお会いしましたっけ?」
ちょこんと、僅かに首を傾げる仕草付き。
「あの、年末のお祭りの時の」
おい余計なことを言うな。
「あぁ~、思い出しました! 確か、詩穂ちゃんと一緒にいた方ですよね!」
しかもしっかり覚えてるじゃん。
「あ、あー……彼女さん? とは初対面だと思いましたけど」
「ふふっ。おにーさん、嘘はつけないタイプですね?」
こっわ……。一瞬で看破されたし。乗り換えの駅まではまだもう少しある。どうするか。
見上げた頭を下げて、目線だけで周囲を確認して、車両同士を繋ぐドアを見たときに閃いた。
「それじゃ。彼女さん立たせっぱなしも悪いし、乗り換えの車両が先頭寄りなんで、移動しますね」
我ながら名案。さっさと立ち去るとしよう。これは嘘じゃないし。
「えー、もう少しお話ししたいのに……」
すいません、と言って僕は席を立つ。せっかく座れたのになぁ、と少し残念な気持ちになりながら移動する。
「せっかくだし私たちも行こっか」
そんな不吉なやりとりを耳にして、ちらと顔だけで振り返るとその通りに後ろをついてきている。
二車両移動したのち、良さげなところで足を止めて吊革を掴みスマホの認証を解除したところで、右横に高橋くんの彼女が並んだ。
……逃げられなかったどころか、むしろ追い詰められた感。改めて右を向き、僕を上目遣いに見る高橋君の彼女と目があう。
「ついてきちゃいました」にっこり。
……知ってました。
「で、さっきからちょっと聞きたいことがあったんですけどぉ……」
「はい?」
「お兄さんはぁ、詩穂ちゃんとどういう関係なんですか?」
声をひそめて、早速確信をついてくる。これはつまり恋人かどうかって聞いてるんだよな。さすがにそれくらいは僕でもわかる。
「どうって言われても、ただの幼馴染ですよ」用意していた言葉をそのまま口にする。
「やだなぁ、付き合ってるんですよね、って聞いてるんですよ」
「まさか、そんなんじゃないよ」
「え、だってこの前詩穂ちゃん、付き合ってるって言ってたじゃないですかぁ」
「……そうだっけ?」覚えてない。
「じゃあ、お兄さんは詩穂ちゃんのこと、どう思ってるんですか?」
なんかすごいグイグイくるな。高橋くんは知らん顔してスマホいじってるし。彼を頼るのも無理そうだ。
「さっき言ったとおりだよ。別に何もないから」
まだ付き合ってないし、嘘は言ってない。
高橋くんの彼女は、「ふぅん? そうですかぁ」と訝った目で僕を見た後、
「分かりました」
と、小さく頷いた。
「じゃあ、私と連絡先交換しましょ」
「ん? どゆこと?」
全く意味が分からないけど、この展開はまずい。
「詩穂ちゃんと別に付き合ってるわけじゃないんですよね。ならいいじゃないですかぁ。それともなんかダメな理由あるんですか?」
「いや、ってか、彼氏くんいるじゃん。そんなあからさまなことはちょっと……」
うわぁ、めっちゃ睨まれてる。
彼女は右手で高橋くんの手を握り、甘えた声で彼におねだりする。
「ただの友達だしいいよね? 今度四人で遊び行こ?」
「お、おう……。まぁそういうことなら」
僕からでも分かるくらい明らかに照れた顔をして、こくりと頷く。
よわっ!? 高橋くんよわっ!? もう少し粘ろうよ!!
「じゃスマホ貸してくださいね」
「あっ――」
あっさり高橋くんが陥落したことに動揺しておろそかになっていた僕の手元からスマホを抜き取ると、彼女は両手で高速操作をして、終わりました、と返してくる。
「あの。遅くなりましたけど私、詩穂ちゃんとは前の同級生で、梓っていいます。普通に、あずさって呼んでくださいね」
素でウインクかましてくる人初めて見た。悔しいがしかし、確かに様になっている。
「あ、うん。よろしく……」
「じゃ、お兄さん――ええと、しのぶさん? でいいのかな。忍さんから詩穂ちゃんに予定聞いといてもらえますか?」
チャットツールに設定してあることもあるが、早速僕を名前呼びにして、一番めんどくさいことを押し付けてくる。
「え? なんの予定?」
「いやだなぁ、ずっと四人で遊び行くって話してたじゃないですかぁ」
ずっと!? さっきまでそれメインの話題じゃなかったよね……?
『まもなく――……』
割って入ってくる車内アナウンスに僕は我に帰る。
「やべ、降りなきゃっ」
その場を離れる僕に、梓と名乗った彼女がトドメの一言を発する。
「連絡くれるの楽しみにしてますね、忍さん」
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