第44話 おまけエピソード【お誘い】
大晦日。
三十分は考えたあけおめメールを送信したときには既に日が変わっていた。
「……年越しちゃってた」
こたつに寝転がりながらスマホをいじる沙苗。テレビでは紅白の歌番組がやっている。
この時間、このテレビでこの番組が流れるのは宮村家の恒例の景色である。
「あ、絵梨花と萌にも送らないと」
丸井へのメッセージを送り、一安心した沙苗は鼻歌混じりにシュッシュッとスマホをいじっていた。
「沙苗、早くお風呂入っちゃいなさいよ?」
「はーい」
言われて、沙苗は重たい体を起こしてお風呂場へと向かう。髪と体を洗い、湯船に浸かり温まる。
うとうとしてきて、このままでは浴槽で寝てしまうと悟った沙苗はお風呂を出る。
ドライヤーなどを済ましてリビングに戻った頃には紅白歌番組は終わっていて、よく分からない正月番組が流れていた。
こたつに入ってスマホを見るとメッセージが届いていた。恐らく絵梨花と萌だろう。
そう思い開くとやはりそうだった。
絵梨花からは簡素的な、萌からは絵文字びっしりなメッセージが届いていた。
そのとき、沙苗は気づく。
二人のメッセージに埋もれてもう一件メッセージが届いていたことに。
その差出人が丸井春樹であるということに。
沙苗は慌ててメッセージを確認する。
『明けましておめでとうございます。去年は本当にたくさんの思い出ができました。今年もよろしくおねがいします』
「……」
あけおめメールの返信だった。
嬉しいことは嬉しいのだけれど、沙苗は少しだけ肩を落とす。
しかし、スマホをスクロールするとメッセージには続きがあることが分かった。
『僕もいつでも暇なので、よかったら初詣でもどうですか?』
と、書かれていた。
沙苗の口元は自然と綻び、体の内側からよく分からない何かがこみ上げてきて、気づけば手を上げて声を出していた。
「誘われたーっ!」
こんな夜中に出すような声のボリュームではなかったので、当然キッチンの方から「うるさいわよ!」と母の声が飛んできた。
「……ふふ」
もう一度スマホの画面を見ながら、沙苗は小さな笑いをこぼす。
今年は何かが変わるような、そんな気持ちを胸に抱きながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます