陰キャな僕はクラスのギャルグループにパシられているが、それはそれで悪くない
白玉ぜんざい
プロローグ
第1話 僕とギャル
「マルオ、あーしレモンティー」
「うす」
「じゃあ、私はミルクティー」
「うす」
「……えっと、じゃああたしはオレンジジュースで」
先の二人がごくごく自然に言ってくる一方で、最後の一人は少し躊躇うようにしていたが、注文がないと買いに行けない。
なので僕が彼女の方を見て注文を待っていると、渋々といった様子でそう言った。
「行ってきます」
「三分な」
「善処します」
そして、僕は教室を出た。
僕の名前は丸井春樹。断じてマルオという名前ではない。
職業は高校生。
ポジションは、パシリだ。
綾瀬グループと言えば校内でもそこそこ名の知れたグループである。一年生の間では恐らく知らない奴はいない。
数ある派閥の中でも上位クラスに属するであろうその綾瀬グループに、僕は現在パシられている。
「買ってきました!」
「……はっや」
ダッシュで向かい、ダッシュで戻ってきたところ、三分は無理だっただろうけどそれでも予想を超える帰還の速さに、グループリーダーである綾瀬絵梨花は引いたような声を漏らした。
「どうぞ、レモンティーです」
「サンキュー」
綾瀬さんは軽い調子で応える。
ばちばちの金髪。髪が揺れてたまにチラッと見える耳にはしっかりピアスが装備されている。
目つきは鋭く、紅く塗られた唇が妙に目を引くきれいな顔立ち。見るからにギャル。見るからにヤンキー。見るからに陽キャ。そしてそれはほぼほぼ正しい。
この圧倒的存在感というか、オーラにより逆らう生徒はほとんどいない。僕を含めて。
「どうぞ、ミルクティーです」
「ありがとー」
気の抜けた声でお礼を言ったのは五十嵐萌。黒色の肩上辺りまで伸びたショートヘア。
文学少女だと言われると信じるくらいには見た目は落ち着いている。しかし、グループ内では一番何を考えているか分からない。
彼女について一つ分かっていることは、ハチャメチャに胸が大きいということ。これ何カップあるんだろうというレベル。
正直なところ、怖い綾瀬さんよりも苦手なのはこの人だ。
「どうぞ、オレンジジュースです」
「あ、ありがと」
やはりというかなんと言うか、申し訳無さそうに受け取ったのは宮村沙苗さん。
茶色に染めたミドルヘア。化粧は最低限にしかしていないようで、素材の良さが伝わってくる。
スタイルは全体的に少し物足りない印象。五十嵐さんと比べるのは失礼だが、胸があまりない。細いと言えば聞こえはいいが、もう少しいろいろと欲しいところだ。
「なんか失礼なこと考えてない?」
「もちろん、そんなことはありません」
どういう能力で僕の思考を読み取ったのか、宮村さんは恨めしそうな半眼を向けてくる。
見ての通り、グループの中では最も話しやすい相手である。綾瀬さんほど性格がキツくはなく、五十嵐さんより感情が分かりやすい。
とはいえ。
話しやすいというだけで、勝手に僕がそう思っているというだけで、別に宮村さんと特別仲が良いのかと言うともちろんそんなことはない。
皆、平等に僕のことをパシリだと思っているし、僕もそれでいいと思っている。
「文化祭の準備手伝わなくていいの?」
宮村さんが教室の前の方に集まっている人集りを見てそんなことを漏らす。
只今の時間、昼休みではなく午後の授業中である。文化祭を間近に控え、準備も最終段階に差し掛かっているので、その追い込みの為の時間。
綾瀬グループは隅っこの方に移動させたイスに座って、この通りのん気に過ごしている。
「ま、別にすることなさそうだしいーんじゃね? ダルいし」
最後に本音が漏れてますよ。
思っても口にはできないが。
そもそも、どうして僕のようなクソがついてもまだ足りないくらいのド陰キャがカースト上位に君臨する綾瀬グループのパシリをすることになったのかと言うと、それはいつもと変わらない昼休みを送っていたとき、突然起こったのだ。
* * *
夏休みも終わり、二学期に突入し、文化祭だ何だと校内が盛り上がっていた頃。
僕は入学から今に至るまで友達一人作れなかったことにより、相変わらずのぼっちライフを送っていた。
二学期が始まった頃にはそんな生活にも慣れ、羨ましさはあれど寂しさは段々と薄れていた。僕レベルの人間なら、普通に考えればこんなもんかと開き直りできるくらいにはなっていた。
なので、昼休みは基本的に読書をする。黙々と、ただひたすらに、文字列を読み進める。
その日もいつもと変わらず、先日購入したライトノベル『クラスのアイドルが俺のことを好きなわけがない』の一巻を読んでいた。
ただ一つ、いつもと違っていたのは前の席で女子グループがたむろしていたことだ。
それが綾瀬グループである。
どうしてその席に座って駄弁るに至ったのかは分からない。ただ窓から見えるグラウンドの方を指差していたので、そっちの方に何かあって見るついでにそこに座ったのだろう。
騒がしかった。
でもうるさいなんて口が裂けても言えない。そんなことを言ってしまえば『お前みたいなクソオタキモメガネが話しかけんじゃねえよ。むしろ息すらすんな』とか言われるに違いないと思っていた。
だから、極力存在感を消して周りの音を気にしないようにラノベに没頭しようとした。
そのとき。
『ねえ、あんた』
話しかけられた、ような気がした。
でも話しかけられるはずがない。だって僕はその人達と言葉を交わしたことなんて一度もないから。
だから、スルーした。
すると、
『は? シカト?』
と威圧感満載の低い声が聞こえた。
これはやべえと思い、話しかけられたのが僕だという可能性を考慮し一応顔を上げた。
めちゃくちゃ機嫌悪そうな顔していた。
『なにシカトしてんの?』
『あ、いや、まさか僕が話しかけられてるとは思わなくて』
事実をそのまま口にする。
そんなこと知るかと言わんばかりに機嫌を悪くする彼女だったが、一緒に駄弁っていた他の二人になだめられてようやく怒りを収めた綾瀬さんは一言、僕にこう言ったのだ。
『許したげるから、レモンティー買ってきて』
と。
それが、事の発端である。
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