あなたは私の予想を超えて馬鹿ですわ

それは新庄達と同じ学校の制服を身につけていた。背が高く顔は仮面に隠されているが女性であると知れる。ただ、腰にはベルトが巻きつけてあり手には刀を持っていた。まるで映画や時代劇で見た侍のような出で立ちである。

彼女は二人を捕まえるために作られた、言わば「人造人間」である。その目的はもちろん二人を食料とすることである。彼女達は、かつて日本全土を襲った未曾有の危機の対策として生み出された対人類の人造兵士であるのだ。その名は「ナイトウキ」というらしいがそんなことは新庄と佐山にとってはどうでもいいことであった。重要なのは自分達がその人造兵士に襲われ、捕まり、食われることである。

何故なら、彼女たち人造兵士は新庄と佐山を、捕まえたあと食べるつもりでいるからである! その数、全部で五機いた。彼女らのうち、一体が倒されるうちに残りの四体が襲ってくるのが見えたのだ。そして、その全てが女子であり、皆同じ格好をしているのだ。だから、恐らくはどこかに彼女たちの指揮官がいるはずだが、それが誰かなどわかりようもない。だがとにかく新庄と佐山はこの窮地から逃れるためには、この校舎から出て外へ逃げなくてはならないと思っていた……外に逃げなければ自分たちの命はない……いや、それよりも……、 新庄と佐山が階段を下っている時に新庄の目にある光景が映った。それは二階下の階で一人の少女達が床に座って談笑していたことだ。彼女らは何が起こったかわからずに驚いていて悲鳴を上げなかったのだが新庄達の気配に気付いて顔を上げると目をまん丸にして「えっ」「ちょっ」などと慌て始めるのが見て取れたが、二人にとってそのような反応に関わっている余裕はなかったのだ。なぜなら、もう一体追っ手がきたのが見えたため、新庄は佐山の手を引いて「走れっ」と叫んだ。

○ 月詠は走るのをやめると振り返った。新庄達と鉢合わせたのだ。そして、新庄の隣にいる人物にも目がいった。「あっ……」

舞だった。舞は新庄が持っていた紙を広げ読み上げた。

「なんですのこれは」…………

「どういうことか説明して頂けます?」

新庄は舞の持つ紙を見つめたまま何も答えない 舞は続けて言う。「あなたが書いたものじゃありませんのよね」と問うも新庄は答えない 舞は紙を持ったままゆっくりと新庄に近づくと彼の正面に立った。

舞は言った。「正直、新庄、あなたは私の予想を超えて馬鹿ですわね」

「……あ、うん。舞はいつもそうだもんね」……と、ようやく声を出した新庄に

「そうじゃないわよ。……あぁもう面倒臭えぇ!」と言って紙を奪う。

そして、彼女は読み上げ始めた。それはこんなものだった。……新庄の下着姿での写真だ。……新庄がスカートのチャックを下げて白い下着を覗かせ、カメラの方に視線を向ける。その写真の下に文章があった。

――これは昨日、私が隠し撮りしたものよ!……私は昨夜眠れず散歩をしていたのですがその時に出会った変態痴漢男がいきなり私を押し倒した挙げ句に写真を撮ったあげくにズボンのファスナーを下ろし始めて……えーとそれから……何だったかな?忘れました。とにかくそんなことがあったの!でも新庄さん!これくらいのことで怒らないで下さい。あなたのことを想っている証拠として受け取ってほしい!

――

その下に続き、

――なお、この男にはすでに制裁を加えたのでこれ以上の危害が加えられることは有り得ません 安心していただきたい

「ま、まさか!これは新庄が書いたものではないのでしょう!」

新庄は首を振ったがそれは「ちっちっち」という音を立てた。それは、新庄と舞の間に立つ月詠の唇から出たものであった。彼女は人差し指を立て横に振ると、自信満々で答える。

「いいや違う。確かにそれは新庄が書いてるんだよ」……しかし、それを聞いた佐山の顔色は悪くなったように見えた。それは新庄も同じで新庄は不安げに「ほら舞。僕の書いた文だってば。ね? だからね、舞、落ち着いて話を聞いてくれればわかるから。あのさ、僕たちは今、すごくまずい立場に立たされてるってことがね。わかるだろう。つまり、僕はこれから先の人生はずっとこのパンツ丸見えな姿を世間様に公開しながら生きていかなきゃいけないわけなんだけどさ。……その、何だ。君たち三人の中で一番先に手を出してくるとしたならば誰だろうかと考えてみた結果をここで発表したいんだけ――って痛いっ!」月詠は手にしていた紙で佐山の尻を叩いてから続けた。

「これは、佐山が昨日の夜に見た夢の中の内容なんだ。これはその通りに彼が書こうと思ったけど、結局途中でやめて、夢日記の中に混ぜてしまったんだ」…………沈黙が流れた……誰もが声を発せずにいた。佐山はお尻をさすりながら涙目になり、顔を赤くして新庄の方を見たが、彼女もまた顔を青くして口を半開きにした状態で自分を見つめており、「ひゃわうっ!?」と、奇声を上げて身を縮めるように両手を自分の胸に引き寄せる仕草をして見せた。新庄は自分が着ているシャツを見た。破れている。それも結構大きい。胸の上部分が切れてしまっている。

「新庄、何なら直に触らせてやるぜ?」と月詠の声がして顔を上げた時には遅かった。いつの間にか隣に来ている。そして、彼女が「わわわ」と言いながら後退する新庄の両手首を握って掴むと、強引に自分の胸元に押しつけようとしてきた。

だがそのときだった。

佐山は動いた。そして「待って下さい!」と叫び、二人を制する。彼女は振り向き佐山を見たが彼は新庄と月詠のことなど見ておらず、新庄の背後に視線を送っていた。その動きを見て新庄も背後を振り返るが……誰もいない。ただ、遠く、グラウンドの方向から体育の授業の喧騒が聞こえるだけである。だが佐山と舞の二人の眼には何か見えたらしい

「どうやら、我々の行動が少しばかり読まれていたようだ」佐山が言い 新庄と月詠は後ろを振り向いて、そちらを睨んでみる。何もないが、確かに感じる。何者かに見られているような気がした。そしてそれは、自分達と同じ学校の制服を身に着けていることに気付いた。

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