女と科学者と酒の誘い
げっ、と彼は驚いた。だが佐山がすかさず手で撫でると血は止まった。傷口を消毒して絆創膏で応急処置する。さすが厚労省関係者、手慣れたものだ。ただ赤紫色の歯形が残っている。「すみません。お手を煩わせて」
「気にすることはない。佐山君の実力だよ。新庄も見習うといい。……で、どうだい佐山君、今度一緒に飲まないかね?」
あ、あの、僕未成年ですけど……。
月詠は新庄の頭に手を置く。その感触は優しく柔らかく温かい。
「大丈夫だ新庄。酒は二十歳になってからというのは、法律が決めたことだ。しかしな、その法律が出来る前は、皆普通に飲んでいたのさ。まぁ、昔は今よりもずっと酒の量が多かったからね。だから、少しくらいなら平気さ」
でもあの、僕、まだ十五歳ですし…… 月詠は新庄の頭を撫でる。
「なーに、心配するな新庄。私もこう見えて結構いけるクチなんだ。付き合ってくれれば分かるよ。きっと楽しい飲み会になるさ……」
月詠は新庄の耳に口を近づけた。そして、そっと囁く。
「実はな、私も新庄と同級なのだ。ま、そういうこともあるということで一つ頼むよ」
○ 月詠は新庄の頭から手を離し、佐山を見た。
佐山の前にはカップ麺が置かれている。彼はそれを見ながら、箸を割ったところだった。
佐山は視線を前に向けたまま言う。
「……何か私の顔についているかな?」
月詠は、いや、と首を振る。
「ただ、美味そうだなと思ってな」
そうか、と佐山は箸を進める。麺をすすり、スープを飲む。満足げな息が漏れる。
そして佐山は、ふと気づいたように言った。……そういえば、私はラーメンが好きだが、他のものを食べたことがないな。
● 佐山は舞を見た。彼女は、舞は、自分のカップ麺を食べている。湯気が立っている。カップ麺の蓋を開け、中の麺を取り出す。割り箸で持ち上げる。
舞は麺を口に入れた。噛む。
○ 月詠は新庄に顔を寄せていた。新庄の耳元に口を当て、そっと言う。
新庄、貴様、先ほどの私の言葉を疑っていたな。
新庄は目を逸らした。
月詠は新庄の頬を掴み、自分の方へ向ける。そして、
「おいこっちを見ろ馬鹿者。私はちゃんと科学者だぞ! 証明してやる!」
言って、彼女はポケットに手を突っ込む。取り出したのは自分の財布だった。その中から一万円札を取り出し、テーブルの上に置く。そして、それを手で握ると指を開く。
月詠の手の中にあった一万円札は消え、代わりに、一枚の小さな紙片があった。
新庄はそれを受け取る。そこには『お年玉』と書かれている。
新庄はそれを両手で持ち、舞に見せた。すると彼女は言った。
○
「新庄、貴様、先ほどの私の言葉を疑っていたな」
新庄は目を逸らした。
月詠は新庄の頭を掴んで自分の方へと向けさせる。
「おいこっちを見ろ馬鹿者。私はちゃんと科学者だぞ! 証明してやる!」
言って、彼女はポケットに手を突っ込む。取り出したのは自分の財布だった。その中から一万円札を取り出し、テーブルに置く。そして、それを手で握ると指を開く。月詠の手の中にあった一万円札は消え、代わりに、一枚の小さな紙片があった。そこには『お年玉』と書かれている。
新庄はそれを受け取った。そして、舞に見せる。
「ほほう、佐山君の方が高いな。やはり佐山君はそれだけ優秀なのだね」
月詠は新庄の肩に手を置いた。その感触は優しく柔らかく温かい。
「気にすることはない。佐山君の実力だよ。新庄も見習うといい。……で、どうだい新庄、今度一緒に飲まないかね?」
あ、あの、僕未成年ですけど……。
月詠は新庄の頭に手を置く。その感触は優しく柔らかく温かい。
「大丈夫だ新庄。酒は二十歳になってからというのは、法律が決めたことだ。しかしな、その法律が出来る前は、皆普通に飲んでいたのさ。まぁ、昔は今よりもずっと酒の量が多かったからね。だから、少しくらいなら平気さ」
でもあの、僕、まだ十五歳ですし…… 月詠は新庄の頭に手を置く。その感触は優しく柔らかく温かい。
「大丈夫だ新庄。私もこう見えて結構いけるクチなんだ。付き合ってくれれば分かるよ。きっと楽しい飲み会になるさ……」
○ 新庄は月詠から渡されたものを手に持ったまま動けなかった。
月詠は新庄からそれを奪い取る。
「いいか新庄、それは私からのプレゼントだ。大事にするんだぞ」
新庄は手に持っていたものを見る。折りたたまれた紙片だ。開いてみると、中には小さな文字がびっしりと書かれていた。
月詠は新庄からそれを取り上げ、開いた。そして、書かれた内容を見て、ふっと笑う。
○ 月詠は新庄からそれを奪う。そして、中に書かれた内容を新庄に見せた。
「これは私からの誕生日プレゼントだ。大事にしてくれよ」
月詠は新庄からそれを取り返すと、広げてみる。そして、そこに書かれている内容を見た。
「これでも私は一応女だからな。こういうものを用意出来るわけさ」
月詠は笑みを浮かべる。そして、それを畳んで新庄に渡そうとするが、ふと気づく。
新庄の様子がおかしい。彼の目はこちらを向いていない。どこか遠くを見ているような目だ。
「新庄?」
月詠は新庄の顔の前で手を振ってみた。反応はない。
彼は視線を宙に向けたままだった。
○ 新庄は、自分を呼ぶ声を聞いた。
舞の声だ。彼女は新庄の横に来て、そして彼の持っているものに気づいたようだった。
「何を持っているのかな?……ああそうか、今日は新庄君の誕生日だったね。おめでとう。何か欲しいものはあるかい?」
新庄は、ゆっくりと首を横に振る。すると、舞が言う。
「遠慮することはないよ。何でも言ってくれればいい。新庄君には世話になっているからね」新庄は、また、ゆっくり首を振る。
「……じゃあ、何をして欲しいのか教えてくれないか。誕生日だ。私が叶えられる範囲であれば、力になろうじゃないか。……ん?」
新庄は、自分の胸元に下げているペンダントに手をやった。
○ 月詠は新庄の前に立った。
彼女の目の前にあるのは紙片だった。そこには『お年玉』と書かれている。
「……新庄、貴様、先ほどの私の言葉を疑っていたな」
月詠は新庄の頬を掴んだ。そして、自分の方へと向けさせる。そして、
「おいこっちを見ろ馬鹿者。私はちゃんと科学者だぞ! 証明してやる!」
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