月下霊異記~真夜中の小道具店はもふもふ達で満員御礼~

渡邊 香梨

夜光珠哀歌篇

序章 桜舞う夜

春夜〜珠葵と白いもふもふ〜

 どうしてここにいるんだろう。


 わたしはただ、おとうさんとおかあさんに、きれいな光を見てほしかっただけ。


「ひいぃっっ! 何、何なの、この子⁉」

「オレの子じゃない! こんなバケモノの子、オレの子なワケないだろう……!」


 そのときから、いえに入れてもらえなくなった。


 どうして?

 この光はきれいじゃない?


 もっと大きくて、きらきらひかればいい?


「そ、そうだ! 東の郭山かくざんに置いてくれば良い! あの山には龍泉りゅうせん様が時折立ち寄られると聞くからな! 良い貢物になるんじゃないか⁉」


「そ、そうね! それくらいなら、この子でも役に立つわね!」


 おとうさん

 おかあさん


 ……どうして?





.゚*。:゚ .゚*。:゚ .゚*。:゚.゚*。:゚ .゚*。:゚ .゚*。:゚





 どこをどうあるいていたのか、よくわからない。


 そとがくらいけど、どうしていいのかもわからない。


 つかれてきたし、しかたがないから、池のそばですわって休むことにした。


『う……うう……』


 そうしたら、急にうめき声みたいな声がきこえてきた。


 どこから声がするのかとおもったら、すこしおくの草むらでたおれている白いふわふわのナニカと、それをいっしょうけんめいゆさぶっている、べつの白いふわふわのナニカがいた。


『お兄ちゃん! お兄ちゃん、しっかり……!』


 おにいちゃん。

 わたし、おにいちゃんほしかったなぁ……。

 そうおもったら、なんとなくそっちにむかって、ぽてぽてとあるいてた。


『だ、誰……っ⁉』


「あ、だいじょうぶ! ちょっと『おにいちゃん』にあってみたかっただけ!」


『……は? 人間? いや、それより言葉……』


 わたしが、よいしょって、その白いふわふわのナニカの前にすわったら、もうかたほうがビックリしてた。


 赤いツノが二本あたまにあって、目もちょっと赤いけど、それより白いおなかが赤い血でそまってて、そっちにビックリした。


「うわ、ちがいっぱいだよ! けがした?」


『み、見れば分かるだろう! それより近付くな! 人間ごときが何も出来まい!』


 なんか、きんじょにいたネコがしゃーっ! っておこってるのに似てたから、わたしはとりあえずニコニコと笑ってみた。

 けいかいさせちゃダメなんだって、村長さん、まえに言ってたしね。


「んー……じゃあ、いたいのいたいのとんでいけー! ってしてあげるね?」


 今は、おとうさんもおかあさんもいないから、くるくる手を回して、出てきた「光」で両方を一回くるんで、ぽいって、空に向けて光を放り投げた。


『は? 何言って――って、はあっ⁉』


「どう、いたくない? よくきくおまじないだよ!」


『う……うそ……』


 その白いふわふわのナニカは、ちょっとびっくりしてたけど、もう片方をぽんぽんと叩いて『傷……ふさがってる……』とかって呟いてた。


「いたくなくなった? だったら、うれしいな!」


『光が……出せる?』


「うん! あ……でも、おとうさんとおかあさんには、きもちわるいからどっかいけっていわれたから、ここだけのひみつね!」


『――――』


 あれ、白いふわふわのナニカのかおが、すごくこわいかおになった?


 やっぱりきもちわるいのかな、ってシュンとしかかったら、白いふわふわのナニカが『違う!』って、わたしのこころの中をのぞいたみたいに、またはなしかけてくれた。


『わ、わるかった! わけのわからないナニカにおそわれて、お兄ちゃんが私をかばってケガをして! も、もうダメかと……!』


「おにいちゃん、げんきになる?」


『ああ、もちろん! 今は神力がちょっとだけ干上がった状態だから、元に戻るのに少しかかるけど、でも、大丈夫!』


「そっか、よくわからないけど、よかった!」


 そういって、にこにこと笑ったわたしに、白いふわふわのナニカが、なにか言いたそうにこっちを見たんだけど、その時、こことは違うところの草むらが、急にがさがさと音をたてて、ふたり?でちょっとびっくりした。


白龍はくりゅうの子と――子ども?」


「だ、だめ! 連れてったり、ケガさせたりしちゃだめ!」


 そこにいたのが、女の人だけど村の人じゃなかったから、私はとりあえず、白いふわふわのナニカをかばってあげなきゃと思って、その前に立ってみた。


「こんな夜更けに、どうしてここにいる? アレらとは知り合いなのか?」


 おねえさんのきびしい声にちょっとビックリしたけど、私はがんばってふみとどまった。


「きょ、きょう、おともだちになった! だから、いたがるようなコトをさせちゃダメ!」


『おまえ……』


 白いふわふわのナニカもちょっとビックリしてるけど、たいじとかされるよりはイイと思うの!


 がんばってその場でふんばる私に、おねえさんは「ふむ」……って、考えるかっこうをしていた。


「その『おともだち』の事は、家の人たちも受け入れてくれるのか?」


 聞かれて私はふるふると、くびをよこにふる。


「わたしの方が、きもちわるいからどっか行けって言われてるから、きっとむりだと思う!」


 いっそすがすがしく言いきってみたら「ひょっとして、口減らしか……」なんて、よく分からないたんごをつぶやいていたけど。


「出て行けと……そう言われて、帰るに帰れなくて、ここにいたのか」


「うん。でも行くところもないし、ここにすわってるしかないかなー、と。あちこち草だらけで、あいてるばしょさがしてたら、ここになったの」


「そうか。ところで……自分の年齢としを言えるか?名前は?」


「せいもんむらのしゅき、5さい! あ、でも、もうすぐ6さい!」


 はい! って、手を上げていきおいよくへんじをしてみたけど、おねえさんにはあたまをかかえられた。


 あれ? 村の人たちは、こう言うときは「よくできました」ってほめてくれてたけどな。


「ああ、すまない。そんな不思議そうな顔をするな。私はしゅ雪娜せつな。今はで、ここにいる」


「しごとって、おとうさんがまいにちでかけてた、あれ?」


「おまえの父の仕事が何かは知らんが、まあ多分似たようなものだ。桜の時期はあやかしも活発で、特に忙しいんだ」


 はなしのこうはんはちょっとよくわからなかったけど、にがわらいのおねえさんは「話がそれたな」と、わたしのあたまの上にポンと手をのせた。


「行くところがないなら、私が今、寝泊りしている所へ来るか? 何、タダで泊まるのに気が引けるなら、ちょっと私のを手伝ってくれれば良い」


 タダよりたかいものはない。

 おいしいはなしにはウラがある。


 村でも、たまにきくことばだし、ちょっとアヤしいかもってさいしょはおもったけど、おねえさんのしごとをてつだえば、とまれるっていうから、それならだいじょうぶかな? ってかんがえなおした。


「この、白いもふもふも一緒?」


「一緒にいたいのか?」


「うん」


 せっかくなかよくなれそうなのに。

 はじめて、ともだちが出来そうなのに。

 はなればなれは、イヤだ。


「もし一緒にいられると言ったら――私と来るか?」


 一緒。

 一緒なら、まよわなくていい。


「……うん、いく」


 わたしは、キレイなおねえさんの手をとることにした。




 ――それは珠葵が5歳の春の夜の出来事――

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