風見くんの正体
@r_417
風見くんの正体
***
風見くんは誰とでもすぐに仲良くなれる。
成績も上々、人当たりも良好、顔面偏差値も……まあ、悪くはない。
だから、風見くんはいつも人に囲まれている。
だけど、意外なことに風見くんの本音を知っている人はいなかった。
「風見の本音?」
何を言ってんだ?
と言わんばかりに睨み付けてくるのは、クラスで一番いや学年一番の成績を誇る梶くんからの返答だ。
「梶(かじ)」と「風見(かざみ)」。
出席番号順で前後になる間柄であり、必然的に風見くんとセットで行動する確率は梶くんがダントツで多かった。
さて、梶くんという存在も風見くんとはまた違う意味で目立った存在だった。
難関高と言い難いレベルの高校とは言え、入学時からずっとトップを維持し続けるケースは極めて稀と言えるだろう。
そんな稀な存在である梶くんに恐れをなし、遠巻きにする存在は多い。その点、風見くんは梶くんに対しても変に萎縮することなく自然体だ。だからこそ、梶くんからも風見くんは一目置かれているわけでもあるんだけど……。
「それ、知ってるからって、天野に教える義理はあるか?」
「ううう、まあ。ないと言えば、ないかな」
「理解してるなら構わない」
「……うううう」
冷ややかな声色、冷静な判断力。
即座にぐうの音も出ない模範解答を提出する梶くんに今日も死角はなさそうだ。
「と言いつつ、天野が他人に興味持つのも珍しいな。何だ、天野は風見が好きなのか?」
「……本当、梶くんは昔っから賢いくせにデリカシー皆無だよね!」
「おおお、そっかそっか。悪かった悪かった」
あくまでも軽い謝罪を述べる梶くんは、何を隠そう私の幼馴染。
男女の仲を超越した、兄妹のような姉弟のような気心知れた間柄だ。
別に今更、梶くん相手に隠し事が出来るとも思っていない。
だけど、梶くんの思ったままを後先考えずに口にする悪癖はいい加減勘弁して欲しいものでもある。
「んー、まあ。悪かったから、答えてやるけどさ。アイツほど、わかりやすい奴いないだろ。たぶん」
「……わかりやすい?」
「え? そうでもない? 天野から見た風見はいったいどういう風に見えてるわけ?」
思い掛けない梶くんからの回答に面食ってしまう。核心をつく質問をバシッと決める梶くんのポテンシャルは流石と言わざるを得ないだろう。
「え、と。風見くんってさ、誰とでも仲良くなれるじゃない。それが、風見くんの長所だとも思ってるけど……なんていうか、風見くんが本当に興味があるゾーンが見えないんだよね」
「ああ、なるほど。確かに、俺みたいな気難しい奴が類友なのか、ナンパで軽薄なタイプなのか、はたまた陰気なキャラクターなのか。誰でも当たり障りなく過ごせるが故に人物像が掴みにくいって面があるかもなあ」
梶くんは含み笑いをしながら、私にさらりと答えてくれた。
「まあ、身も蓋もない回答かもしれないが、風見の場合はどれも正解だろうな」
「? どういうこと?」
「んー。気難しさを楽しむ面もあれば、ナンパな軽薄感にも抵抗ないし、所謂オタク趣味にも理解がある。というか、何であれフラットに対応するオールマイティさが風見の売りだな」
「えっと、じゃあ。多趣味な人ってこと? ……なの?」
そうは見えないから恥を忍んで梶くんに尋ねたというのに……。
何とも煮えきらない思いを抱きつつ返す言葉に、梶くんがニヤリと笑みをこぼした。
「あー、うんうん。天野にしてはイイ線、気付いてるなあ」
「……というと?」
「確かに風見の場合、相手とナチュラルに会話が成立するレベルに極めているし、かけ離れた趣味の二刀流とか多趣味とか言っても、まあ嘘じゃあないと思うけど、俺は風見の平和主義が極まった結果だと思うけどな」
「平和主義……」
「だろ? ナチュラルに会話が成立するレベルに相手の関心事を極めるってなかなか出来ることじゃあないと思うぞ」
風見くんの凄さを素直に認める発言をしている梶くんのまなざしは本気だ。
あの梶くんに一目置かれているなんて……。風見くんの凄さを改めて痛感する。
「だから、天野だって惹かれたわけだろうし」
「なっ……!?」
まさかここで蒸し返してくるとは思いもよらず、狼狽てしまう私を尻目に実に楽しそうに梶くんは呟く。それは、実に楽しそうに。そして、うれしそうに。
「まあ、風見の場合は多趣味とか二刀流なんてフレーズより風見鶏がハマる気がするけど。風見だけにね」
【Fin.】
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