終わらない初恋

@_fly_

第1話 初恋

 初恋がなぜ特別なのか。

 

 初めて恋をしたのは、小学4年生の頃だった。

 わたしが、恋する気持ちを知ったのは、周りの友達よりも少し遅かったと思う。周りの女の子や男の子が、誰が誰を好きかという話で盛り上がるようになった頃、わたしはまだ、「好き」がよくわからなかった。

 それでも、好きな人は誰?と聞かれるから、そんな時は、クラスで1番顔がカッコイイ子や、足が速い子や、面白くて人気者の子の名前を適当に挙げていた。一緒にいて楽しい友達は男の子も女の子もみんな好きだった。

 でも、その好きと、みんなが言う「好き」は違うんだろうなと漠然と思っていた。

 わたしには、歳の近い兄がいたせいもあり、小さな時から男の子と遊ぶことが多かった。よく遊ぶ男の子や、毎日一緒に学校から帰る男の子もいて、その子達と一緒にいるのはとても楽しかった。楽しかったけど、恋ではなかったと思う。たくさん笑ったけど、ドキドキはしなかった。

 一緒にいて楽しい気持ちと恋がどう違うのか。

 ドキドキやときめきが有るか無いかだろうか。家族や友達とは一緒にいて楽しいけど、ドキドキしたりときめいたりはしない。今でも、恋心を、言葉で表すことは難しい。

 小学生のある時、あぁこれが恋なんだ!と、今までにない感情を初めて感じたのを覚えている。

 わたしは、クラスメイトの大杉くんに恋をした。大杉くんとはずっと同じクラスだったけど、一緒にいた思い出は、他の男の子とのほうがたくさんある。大杉くんとしゃべったり楽しく過ごしたり一緒にいた記憶がほとんどない。なのに、彼のことを思い出すと、今でも少しドキっとする。当時のわたしも、彼のことを想うと、すごくドキドキしていたのを思い出す。

 恋する前からずっと同じクラスだった男の子を、どんなきっかけで好きになったのか、いつどうして好きだと気がついたのかは、はっきりと覚えていない。気づいたら、すごく好きだった。

 彼と近づくだけでドキドキして、目が合うと恥ずかしくて、だけど気づくといつも、彼の姿を目で追っていた。これが、みんなが言う「好き」なんだと思った。

 

 気持ちや感情を、一度でも言葉にして頭で考えていると、後からも、あの時はああだったと思い出せる。だけど当時は、自分の気持ちを言葉として考えたり見つめたりすることなどできないほどに幼くて、どんな想いだったのかが、どうやっても思い出せない。気持ちの記憶を呼び起こすことは難しい。ただ、胸の鼓動としてだけは覚えている。

 

 当時一度だけ、初恋の彼への気持ちについて考えたことがあった。それは、ある女の子に、大杉くんのどんなところが好きなの?なんで好きなの?と聞かれた時だ。その子とわたしは、とても仲がよくてよく一緒に遊んでいた。その子も、大杉くんのことが好きだったので、共感したかったのか、それとも対抗心で気持ちを確かめたかったのかは、わからない。だか、そのおかげで、あの頃の気持ちの記憶を少しだけ思い起こすことができた。

 彼は、いつも男の子達の真ん中にいて、でも性格は穏やかで物静かだった。背がとても高くて目立ってはいたけど、自分からリーダーとして先頭に立つという感じではなく、いつも穏やかに笑っていた。そんな彼の周りに自然に他の男の子達が集まっているように見えた。彼のそんなところが好きだと、わたしは彼女に説明した記憶がある。一度言葉にしたので、きっと記憶に残ったのだろう。他には、彼の大きくてキラキラした目にドキドキしたのも覚えている。背も大きくていつも落ち着いているのに、照れると耳が真っ赤になるのも覚えている。

 わたしは、4年生のその頃から、小学校を卒業するまで、ずっと彼を好きだった。友達と好きな人の話になると、いつも彼の名前を出していた。

 ある時、クラスで、わたしと大杉くんは両想いだと、冷やかされるようになった。でも、好きだからって付き合うとかはもちろんわからないし、手をつなぎたいとか、一緒に帰りたいとか、どうしたいっていうのがなくて、ただ好きだった。友達とふざけ合って楽しそうに笑う彼を、横で見ているのが好きだった。女の子の友達と、好きな人の話をし合えるのが楽しかった。一瞬、彼と目が合ってドキッとすると、心が喜んだ。夜寝る前には、彼のことを考えてああだったら、こうだったらと空想して楽しんだ。それだけで、恋する心は満たされていた。

 でも、わたしも彼も、とても恥ずかしがり屋だったので、両想いと言われるようになってから、お互いに恥ずかしくて全く話すことができなくなってしまった。

 それもあって、彼と一緒に過ごした思い出が少ないのだ。それでも、わたしの好きな人は、ずっと大杉くんだった。

 小学校の頃は、周りの女の子も男の子も、結構すぐに好きな人が変わっていったのに、わたしは、ずっと変わらなかった。女の子の友達に、よく、3番目まで好きな人を書いて交換しようと言われたりしたが、わたしは、いつも1人しか好きな人がいなくて困ったのを覚えている。一時は両想いだと言われた大杉くんだって、好きな人は変わっていっていたのかもしれない。そうだとしても、わたしにはそれは関係なく、わたしはずっと彼に恋をしていた。

 

 恋する気持ちは、わたしには、ある時突然現れた。恋する人に出会ったからではなく、ずっと共に過ごしていたクラスメイトに、突然、恋する気持ちが芽生えたのである。今どんなに思い出して考えてみても、きっかけになった出来事は何も思い出せない。気がついたら恋をしていたのだ。

 そして、初恋の彼とは、話したり一緒に過ごしたりした思い出が少ないまま小学校を卒業した。仄かな恋をしたまま、わたしは中学生になった。

 彼とは同じ中学校で、仄かな初恋は、少しずつ変化しながら続くのだった。

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