異世界でやたら長い料理名の店を作ってみました

櫻井彰斗(菱沼あゆ)

第1話 車ごと異世界転移していました


 アクセルとブレーキを踏み間違えて、波止場で海に落ちたはずが、異世界にいた。


 異世界転生にしては、そのまんまの格好と年齢だったので。


 車が空中に飛び出したとき、なにかの弾みで異世界転移してしまったのだろう。


 そもそも、あそこに乗っていた車があるし、とクリスティア……と名乗っている栗栖くりすしのは窓から木々の間にある桃色のモコッとした自分の車を見る。


 この森の中に降ってきたとき、とりあえず、何処かに住居を、と思い、森の中をウロウロしていたら。


 見たこともないような巨大な木の根元に巨大なうろが空いているのを発見。


 村のはずれに捨ててあった机や椅子を運んで、家っぽくし。


 畑にいた村の人に話しかけたら、言葉が通じたので、なんとなく話しているうちに、いろいろ物をもらって、うろの中が家っぽくなった。


 開口部が大きすぎて、ちょうどいい扉がなかったが。


 温暖な気候だし。


 元来、細かいことを気にしない性格なので、特に不便も感じず、扉がないまま暮らしていた。


 そんなある日、村のおばちゃんに言われた。


「クリス、そろそろ、あんたも働かないと。

 あんた、なにができるんだい?」


「え……」


 あんた、今までなにしてたんだい? とおばちゃんに訊かれ、


「か、会社で普通に事務仕事をやってました」

としのは答える。


「会社ってなんだい?」

と問われ、


 そう来ますよね~、と苦笑いしたしのに、おばさんは訊いてくる。


「なにか手に職はないのかい?」


「あ、ありませんね」


「料理とか洗濯とかどうだい」


 料理……。


 そうだ。

 波止場に行く前、図書館で借りたハーブ料理の本があったはずっ。


 しのは急いで車の中を漁ってみた。


「あった」


 作るあてはなかったが、眺めるのに綺麗だったので借りたお料理本を掲げ、しのは言った。


「よしっ。

 これでお店を開いて稼ぎ、日々のかてを得ることにしますっ」


 いつもなんとなくおばちゃんたちが野菜や肉やパンなんかを差し入れてくれるので、なんとかなっていたが。


 確かに、いつまでもご厄介になってるわけにはいかない。


 レストランを開くと宣言した、しのにおばちゃんたちが言う。


「そうかい。

 私たちは頻繁に食べに行けるほどお金はないけど。


 ここは意外に街道から近いから、旅人があんたの店に立ち寄るよう、宣伝してあげるよ」


 そう親切にも言ってくれ、村のおじさんたちがいらなくなった机や椅子や皿を運んでくれ。


 あっという間に店は開店してしまった。



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