犬派であり猫派な私

紗織《さおり》

優里、驚く!

 「ここは!?」

 ある朝、目が覚めたら少女時代に戻っていた。


 見覚えのあるこの景色は、紛れもなく私の育った子供部屋。

 驚きながら、鏡に自分の姿を映してみると、小学校四年生の私だった。


 「えっ、えっ、どうして?」

 子供時代に戻ったというのに、頭の中には、大人の私の記憶がちゃんと残っているのだ。

 

 

 「優里ちゃん、早く起きなさい。学校に遅れるわよ。」

私を呼ぶ母の声が聞こえてきた。


とりあえず階段を下りて、ダイニングへ向かうと、席に座った。


「おはよう。ねえ、優里ちゃん、昨日言っていたワンちゃん。

どうしても飼いたいなら、週末にお父さんに相談してみたら。」

母は席に着くなり私にそう言ってきた。


「!!!」

なんという事でしょう。私は運命の日に戻って来ていたのです。

私はこの後、通学途中に捨て猫達と出会い、その中の子を飼う事になるんです。


さっきの母の話は、よく一緒にお散歩をしていたご近所の白柴犬が産んだ赤ちゃんを、私の家で飼いたいとお願いしていた話。


そうです。動物が大好きな私は、この頃自分の家でペットを飼いたいと親にお願いばかりしていたんです。


あの時、8匹の捨て猫の飼い主はなかなか見つからず、子犬には他にも希望者がいた状況だった。そして、どちらも大好きだった私は、両方は認めてもらえず、猫を飼う事を決めたのでした。



(もしも今日、捨て猫に出会わなかったら、そのまま、私の家には子犬が来るんだ。)



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大人の私の家には、犬がいます。

夫婦共に子供の頃に猫を飼っていた私達は、やがてペットとして猫を飼うのだとばかり思っていました。


でも娘が欲しがったのは、子犬でした。

犬を飼うのは二人とも未経験。でも娘が飼いたいならと犬を飼い始めました。

初めての事ばかりでしたが、勉強しながら犬を飼い、育てていると、当たり前の話だけれど、やっぱり犬もすごく可愛い。


そしてあっという間にその犬との十年の月日が経っています。



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(もしも私が犬を飼っていたら、もっと上手に今の犬を育てる事が出来るのかしら?)

子供に戻っている私の頭の中に、突然フッとこんな考えが浮かんできたのだった。




「ミミちゃんと過ごした二十年。あんなに大切な思い出を沢山くれているのに…。

私ったら本当に馬鹿ね。」

自分が一緒に暮らした愛猫との記憶が、きっぱりと妄想を断ち切った瞬間、私は目覚めた。




いつもの自分の布団。自分の部屋。いつも通りの朝が来ただけなのに、なんだか少し変な気分だった。




「おはよう。」

一番に起きる私の挨拶の相手は、もちろん愛犬のチョコ。


尻尾を小さくフリフリっとだけすると、チョコはすぐにリビングで体を休めていた。


チョコは、いつもより元気が無い。そう、彼は風邪を引いてしまったのだ。


毎日元気で病気知らず。そんなチョコが風邪を引き、熱が出た。


初めてのチョコの病気に、慌てて動物病院に駆け込んでいた。そこは、いつも予防注射等でお世話になっている病院だった。


「大丈夫、薬を飲んでゆっくり身体を休めたら、すぐに良くなるよ。食欲が落ちると良くないから気を付けてあげてね。」

先生から言われた通りの事を出来るだけしてあげようと、昨日は一日中看病を中心に生活をしていた。



(私ったら、チョコの事がそんなに心配だったのかしら?


 そう言えば、愛猫のミミちゃんもほとんど病気知らずの子で、最期の時だけ病院に行ったような子だったな。


あの時、先生から、

「病気じゃない。これは老衰。寿命だよ。」

って言われたんだっけ。


ふふふ、でもこれはチョコにはずっと先の話だわね。)



朝ご飯を食べようと声を掛けたら、昨日よりも少し元気に餌皿の所までやって来るチョコの姿を見て、ホッと一安心した。


そして私は、いつもと同じように、家族の朝の準備を開始したのだった。

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