これも一つの二刀流
瀬川
これも一つの二刀流
一緒に住んでいるタロさんは、いつも晩酌を楽しんでいる。
あまりお酒は強くないから、一杯にちびちびと時間をかけるという飲み方だ。
僕も一緒に飲めたら良かったのかもしれないが、体質的にお酒を全く受け入れられない。その代わりに、おつまみをつまませてもらっている。
「そういえばさ。なんでタロさんは、いつもこういう甘いものを食べているの?」
「ん?」
いつものように晩酌中、僕はふと気になったことを聞く。
お酒が飲めないから勝手なイメージだけど、つまみといえば唐揚げとかイカの塩辛とか、味の濃い食べ物だ。
でも今テーブルにあるのは、ブランデーのロックと、俺用のお茶、そしてお皿にのったショートケーキだ。
仕事から帰ってきたタロさんが、有名なお店のだと言ってただけあって、とても美味しい。美味しいけど、こういうのは三時のおやつに食べるものじゃないか。
同居して初めて知ったが、タロさんは甘いものでお酒を飲むタイプなのである。
「こういうのって合うの? お酒と甘いものだよ?」
僕の周りでそういう人がいなかったから、余計に不思議だった。
タロさんはフォークで小さく切り分けたショートケーキを食べ、そして味わいながらブランデーを飲む。
「合うよ。たしかに、お酒のおつまみは塩辛いもののイメージが強いかもしれないけど、例えばこのショートケーキ。風味付けにお酒を少し入れているから相性がいいんだ」
「へー。そうなんだ」
「別に甘いものじゃなきゃ絶対に駄目っていうことはないけど、自分へのご褒美としてね。一日の終わりに、君と今日あったことを話しながらゆったりと食べる。この時間がとても好きなんだ」
穏やかに笑うタロさんは自覚がないのか。
今とんでもなく恥ずかしいことを言っている。
「た、タロさんも若くないんだから。ちゃんと体調管理しながら食べるんですよ」
可愛くないことを言ってしまったが、まだ僕には同じような甘い言葉は恥ずかしくて無理だ。
いつか、僕もこの時間が好きだと言えるようになりたい。
これも一つの二刀流 瀬川 @segawa08
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます