ulerou desu ulinau

エリー.ファー

ulerou desu ulinau

 音楽なんて誰でもできる。

 歌えばいいし、演奏すればいい。

 誰もが音楽を知っている。

 しかし。

 誰もが音楽を特別なものだと思いたがっている。

 ああいうことをするから、思いあがる人間が増えるんだ。

 やめたほうがいい。

 音楽を楽しみたいなら、音楽を音楽のままでい続けさせるためには。

 崇めてもしょうがないじゃないか。

 でも。

 少しくらいは崇めてもらわないと、お金にならない場合もある。

 だから難しいんだ。

 宗教みたいな時もある。

 簡単に定義することはできないんだ。

 本当だよ。

 嘘じゃないんだ。

 本当なんだよ。




 歌詞を書いた。

 悪くないと思った。

 音楽を馬鹿にしながら、自分の身を案じている。

 まぁ、大ヒットはしないまでも、今の知名度なら受け止めてもらえるだろう。

 金は稼げる。

 困らない。

 音楽を続けられる。

 この業界の上位一割には入っている自信がある。

 大丈夫だ。

 これからも趣味の延長で仕事をできるだろう。

 だから、もう少し冒険をしてもいいかもしれない。

 そう思って書き直そうとした。

 できなかった。

 私は、今の私にできる限界で仕事をしていたようだ。

 私というジャンルの先頭にいるのは、私である。

 判断を間違えているとは思えない。

 しかし、どことなく足りない気がした。

 午前二時十六分二秒。

 八年前の同じ時間に先輩と話したことを思い出す。




「社会人でもやりながら、音楽やれって」

「先輩、それは無理ですよ」

「なんでだよ」

「大変だって聞きますし」

「そんなことねぇって、大丈夫だよ。やってみろって」

「先輩は、社会人になって音楽やめたじゃないですか」

「俺はね」

「ほら」

「でも、お前はできそうじゃん」

「何を根拠にそんなことを言うんですか」

「俺は、苦労したから」

「私も苦労してますよ」

「違うって。お前はいくらでもできるだろ」

「まぁ、曲作りは苦じゃないですね」

「だろ。じゃあ大丈夫じゃん」

「社会人とミュージシャンの二刀流ですか」

「そういうこと」

「あぁ、できるのかなあ」

「やれよ。いいから」

「ううん」

「やれ」

「でも」

「やれ」

「はい」

「俺、お前の作る曲、大っ嫌いなんだよね」

「ちょっと、話が違うんじゃないですか」

「まぁ、聞けって。でも、お前の姿勢は嫌いじゃないんだよ。だから、お前を応援してるし、お前の曲は絶対に買うようにしてる」

「それは、有難う御座います。本当に、励みになってます」

「だからさ。とにかくやれって。二刀流だと、集中が分散して難しいとか、音楽一本でいくから追い込まれてパワーが生まれるとか、色々言うヤツいるじゃん」

「はい」

「気にしなくていいから、そういうのは」

「そうなんですかね」

「そりゃそうだろ。そういうのは大抵、うまくいってねぇやつが言うんだよ。そうだろ。才能ねぇのに、プライドの高いヤツがアーティスト気取ってるのが一番だせぇんだよ」

「ははっ、さすがに言い過ぎですよ」

「俺が言ったんだけどな」

「え」

「さっきの言い訳を言ったのは俺だよ。お前に知られないように、こっそり社会人とアーティストの二刀流を目指してたんだ。それで、駄目だった。その時に、周りに言った言い訳」

「そう、ですか」

「お前にだけ言わなかったのはな。俺の周りで二刀流を続けられて、結果も出しそうなヤツがお前しかいなかったからだよ。お前にバカにされるのが怖かったんだ」

「バカになんてしませんよ」

「いいや、したよ。お前なら、この先輩だせぇこと言ってんなって目で俺のことを見たはずだよ」

「いやいや」

「頼むよ。プロになって、超有名になってくれよ。俺の周りで結果だしそうなの、お前しかいねぇんだって」

「先輩」

「なんだよ」

「私は、先輩が私以外の人にも同じようなことを言ってるって知ってますからね」

「そういう所も含めて、お前は売れるよ」

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