Ⅲ-7

 残業を終えて家に戻ると、エリコがカバンを抱えてドアの前にすわり込んでいた。

「電話くれればよかったのに」玄関のドアを開けながら僕がエリコに言う。

「あたしも着いたばかり」そう言ってエリコは立ち上がった。

 僕が着替えをして部屋から出てくると、エリコはリビングのソファーにすわったままじっとしている。

「どうしたの。いつもの部屋使っていいんだよ。そのままにしてあるから」

「奥さんは戻ってないの」

「あいつはもうここには来ないよ」

「なんで」エリコはじっと僕を見ている。

「桜は咲いてもまだ夜は冷えるからね」

 僕は風呂の準備をするためバスルームに向かう。

「ゆっくり体温めるといいよ」

「桜めっちゃきれいやった」

 僕がリビングに戻ってくるとエリコの明るい声が聞こえた。

「大阪のほうはどうなの」

「もう終わりや」

「そうか。まず風呂に入って、上がってきたらビールでも飲んでて。ごはんの用意するから」

 そう言ってぼくはキッチンに行って冷蔵庫を開けた。

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